新型コロナワクチン接種体験談「秒針ほどあてになるものはない編」
人は時間のなかに生きる。時間によって拘束され、形成される。だが、私自身はその時間を理解できたと感じたためしがない。いや、曲がるとか、逆戻りするとか、どこかにパラレルに存在するとか、そんな理論上の時間のことではなく、ごく日常的な時間、時計にしたがって規則正しく進行する時間のことだ。チクタク、カチコチ……。秒針ほどあてになるものはないのに、一方で時間は伸び縮みする。ほんのちょっとした喜びや痛みがそれを教えてくれる。ある感情は時間の進行を速め、ほかは遅らせる。ときには時間が消失したかに思えることもあり、そして最後にはほんとうに消失して、もう戻らない。
ジュリアン・バーンズ「終わりの感覚」
あえて、むちゃくちゃカッコイイ一節を引用してきました。
ジュリアン・バーンズ「終わりの感覚」は五十歳を超えた主人公のもとに学生時代の恋人の母親が日記と500ポンドを自分に遺した、という内容の手紙を受け取るとろこから始まる小説で、ブッカー賞(世界的に権威のあるイギリスの文学賞)を受賞しています。
二十二、三歳くらいの頃に読んだのですが、五十歳を超えても学生時代の恋愛や失敗が付き纏ってくるのか、というちょっとした絶望的な気持ちになる傑作です。
とはいえ考えてみれば、イジメでもした側はすっかり忘れているけれど、された側は一生覚えていて、そこに年齢とかあんまり関係ないよなとも思います。
ただ、今回僕が書きたい内容とはあまり関係ありません。
引用した理由は「時間は伸び縮みする。ほんのちょっとした喜びや痛みがそれを教えてくれる。」という点です。
ということで、コロナワクチン接種の一回目に行ってきました。ちょっと時間がの伸び縮みするような体験でした。
本題に入る前に、一つ自慢をさせてください。
僕は二十歳頃に自慢していたことがあって、それは虫歯になったことがないと、インフルエンザに罹ったことがない、なんです。
幼少期、喘息持ちで深夜に発作を起こして母親に車で夜の病院に担ぎ込まれて、点滴を打たれた経験が何度もあるせいか、神様がインフルエンザは勘弁してやるか!と思われたんでしょう。
インフルエンザをずっと他人事として生きてきたんです。そんな僕なので、予防注射とかも打った記憶もまったくないんです。
だから、予防注射がどういうものなのか分からないんです。
今回のコロナワクチン接種とインフルエンザの予防注射が厳密にどう違うのかとかも、まったく分かっていないです。ただ、なんとなく同じカテゴリーなのかな、と思っています。
違ったら、ごめんなさい。
ということで、コロナワクチン接種について調べたりしつつも、どういう感じかまったく想像できずにいる僕の最初の壁は、予約が取れないでした。
ワクチン接種が始まった当初の混乱は中々なものがあった印象でした。最初は高齢者と医療従事者と基礎疾患を持った方たち。
そりゃあ、そうだという優先順位でした。
僕は三十歳になったばかりで基礎疾患もとくにないので、後の方でいいかな? と思いつつ、予約ページは巡る日々を七月、八月は過ごしていました。
ちなみに、僕が住んでいる市はずっと65歳以上か基礎疾患を持っている人と妊婦が対象で予約できるとされていました。
その為、僕がワクチン接種をしたいとすれば大阪府がやっている集団接種の予約を取る必要がありました。実際、職場の方で大阪府の集団接種の予約が突然取れたと言って、慌てて休みを取る、という人がちらほらいました。
また、町の病院でもワクチンを打ってくれるところがある、という話も聞いていたのですが、九月の頭まで僕の住む市のホームページにその手の病院に関する記述はありませんでした。
そんな中で九月四日の正午に十六歳から四十九歳くらい(この辺は曖昧)を対象にした集団接種の予約ができる、と市からアナウンスがあったんです。対象者に入っていたので、ネットで予約を取りました。
日付を二十一日と希望しても簡単に取れたので、少し拍子抜けした気持ちになりました。
ちなみに、なぜ二十一日かと言うと前の週の五日間は会社に出勤しておきたかったからです。で、二十日の月曜日は祝日で、二十一日に打って二十二日は休んで、二十三日も祝日。
つまり!
二十一日の午前と、二十四日の金曜日だけ出勤すれば良い週の完成です。やったぜ!
副反応がやばいことになっても、二十三日も安静にしていれば良いのだから、完璧なスケジュール!と自分を誉めつつ、アクエリアスとかこんにゃくゼリーを仕事帰りに買ったりして前の週は過ごしました。
ちなみに、「ウィダーinゼリー」が良いともあったんですが、ちょっとお高いじゃないですか?一回目で、それ買っちゃうのもどうよ?という若干、一回目の副反応をナメてる僕もいました。
事前の買い物で困ったものが一つあって、それが冷えピタでした。元々、僕は何でもない日でも冷えピタを貼る人で、常に部屋に常備しているんですが、八月を過ぎた辺りから大人用の冷えピタが売り切れになっていました。
仕方なく、子供用の冷えピタを買ったのですが、九月になると、それも売り切れになっていて、コロナワクチン接種の影響なのか、残暑なのか、と考えたりしました。
何にしてもアクエリアス、こんにゃくゼリー、冷えピタは用意したので、あとは前日に食べもの系を買えばオッケーというような算段でした。
前日の二十日は祝日で友人とマーベル映画の「シャン・チー/テン・リングスの伝説」を昼から見に行く約束をしていました。映画を見た後、友人は夕方に甥が家に来るんだと、言うのでそれまで僕の部屋で宅のみをすることになりました。
酒を買いつつ、キャベツ半玉、もやし、しめじ、えのき、ミネラルウォーターをカゴに入れました。ほとんど僕の買い物になったので、支払は僕が持ちました。
恩を売っといて、今度奢ってもらおうという下心です。
ちなみに、友人はコロナワクチン接種はまだとのことでした。理髪店で働いている友人なので、受けといた方が良いんだよなぁとぼやいていました。
理髪店のお店にもよるようですが、友人は切った人の数だけお金が入るシステムらしく、またお店にいるスタッフの数も限られているので、休むにも事前の相談が必要なようでした。
給料面と一緒に働くスタッフの目を考えると、コロナワクチン接種に躊躇してしまうのは理解ができました。
そんな友人と僕の部屋で乾杯し、映画の感想を喋りつつ、おつまみとしてトーストにポテサラとチーズをのせて焼いたものを「最近、ハマってるんだ」と出したりしてました。
ポテサラにブラックペッパーとからしを混ぜるのが、僕のお気に入りです。
夕方になって友人を駅に送ったついでに、再度スーパーへ寄って牛乳とカフェオレとヨーグルトを買いました。万全の構えです。
部屋に戻って、お酒を抜くのも含めて少しだけ寝てから、具たくさんの味噌汁と朝食用のサンドイッチを作りました。
熱いコーヒーを淹れて、飲みながら「新型コロナワクチン接種の予診票」を書き、「ワクチン接種券(クーポン券)」と共に、仕事用の鞄へしまいました。
ちなみに予診票には当日の体温を書く箇所があるので、朝もう一度引っぱり出す必要はあるのですが、体温の箇所を書き忘れても職場で書けるし、という判断でした。
ここまでの流れは完全に遠足前の少年です。
正直、ちょっとコロナワクチン接種が楽しみになっている僕がいました。
しんどいのかな? しんどくないのかな? 作った味噌汁に冷凍の牛肉となんこつと入れたの食べるの楽しみだなぁ、ワクチン接種後の休日にアマプラでなに見ようかなetc.
ベッドの中で明日のことを想像する、それ自体がちょっと遠足前夜的なものなのかも知れません。そんなベッドの中の時間は少し伸びて感じられました。
ということで、長くなっているので一端ここで切りたいと思います。続きは後日。
サポートいただけたら、夢かな?と思うくらい嬉しいです。