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昔、妻が使っていた学習机で文章を書く、「住めば都」「夏と変わる生活」。

 この八月に引っ越しをした。
 人生で数えてみると七回目の引っ越しだった。僕の父は幼少の頃から親の事情で引っ越しを繰り返していた。その度に転校生として新たな人間関係を構築しなければならず、苦労したとよく語っていた。
 引っ越す距離にもよるけれど、生活が変わることは間違いない。
 振り返ってみると僕自身の引っ越しはすべて生活やそれに類するものを変えていた。

 一回目の引っ越しは幼稚園の頃だった。広島市内の平地にあったアパートから山を削って作られた住宅地の一軒家への引っ越しで、部屋は増えて広くなったけれど、田舎に来たと言う印象は強くあった。
 実際、小学校に通うのにも徒歩で三十分、中学が四十分で、高校が一時間半かかった。家が遠いと言う理由でいろんなもの諦めた部分はあった気がする。

 二回目は高校を卒業と共に広島から大阪への引っ越しだった。三月のことで、両親が荷物を広島から車で運んできてくれた。そこから一人暮らしがはじまった。
 十八歳の青年にまともな家事能力があるはずもなく、食生活を含む生活水準はひどいものだったが、両親の目がない気楽さは救いだった。

 三回目から五回目までは大阪の中をあっちこっちに移動した。その度に環境は変わったけれど、僕の部屋が友人たちのたまり場になることは変わらなかった。
 当時の僕は友人と部屋で宅飲みをするのが世界で一番楽しかった。深夜のコンビニだったり、翌日の昼過ぎに友人を見送ってからの二度寝。喋ることは幾らでもあったし、飽きたら映画やアニメを見れば良かった。

 僕は一人で本を読んだり、ものを考えたりすることが好きだけれど、それと同じくらい他人と一緒にいる時間も好きで必要としていた。一人暮らしを振り返ると、そういう結論にいきつく。

 六回目の引っ越しが大阪から姫路だった。当時の彼女(現在、妻)の部屋に転がり込む形だった。引越し業者を使うと値段がとんでもないことになるのは予想がついたため、彼女(現在、妻)が何度も姫路から大阪まで車で来て荷物を運んでくれた。
 時期は夏だった。
 そして、今回の引っ越しも夏だった。
 気づけば僕の引っ越しシーズンは冬から夏に変わっていた。

 ちなみに、この文章は新居で書いている。部屋は三つあり、一階に一つと二階に二つ。一階にはエアコンが設置されていたが、二階はなく二台のエアコンを取り付ける必要があった。
 何度かエアコンを取り付ける前の新居に来て、寸法を図った。その度に、二階は日が入るためか暑かった。実際に住んでも二階はエアコンをオンにしていないと、熱の壁のようなものを感じる。
 目の前には段ボールの山がある。その奥の壁が本棚になっていて、こちらには本が収まっている。
 姫路で夏を迎えるのは二回目でどちらも引っ越しをしてきたばかりだった。
 理由は単純で妻の都合に合わせると八月に引っ越しをするのが丁度いいのだ。

 今回は更に、妻の実家も今年の終わりごろにリフォームをする予定でいる。それに伴い家の荷物整理が行なわれており、我が家でタンスと妻が使っていた学習机を引き取ることになっている。
 今後はこうして文章を書く時は妻が過去に使っていた学習机になりそうだ。

 一人暮らしをしていた頃には考えていなかったような世界に僕はいる。
 どんなに頭を捻っても大阪にいる頃に結婚して妻が使っていた学習机で文章を書くだろう未来は想像できなかった。

 おそらく、この先も予想外なことが多々起こるのだろう。
 引っ越しはした後でないと、その土地や部屋のことは分からない。僕の生活は間違いなく変わるけれど、どう変わるのかは引っ越す前には分からない。ただ、住めば都だと言う。

 結婚生活も四ヶ月が過ぎた。この先も予想外なことは起こっていくだろうし、それに今から身構えることには意味がない。起きることは仕方ない。住めば都。起きたあとに、それを心地よく楽しむ。
 そういう気持ちを持って日々を過ごしていく。

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さとくら
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