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日記 2020年11月 生々しい生活から逃げる訳でも、真っ直ぐぶつかるのでもなく、身をよじる方法を考える。
11月某日
コロナの感染者数がまた、ツイッターのトレンドなどに上がるようになってきた。僕の周囲でコロナになった人はいない。
ただ、なんとなく窮屈な空気は感じる。
前の職場の連中と忘年会をしよう、という誘いがあった。
オッケーしたけれど、お店とかより、僕の部屋でやらない? という気持ちにはなっている。
11月某日
日記をまったく更新できていなかったので、伊集院光のラジオの冒頭「今週、気づいたこと」というのを真似て、「最近、気づいたこと」をしようかな? と途中まで書いて、ネタが尽きる。
以下に書いた分を載せる。
最近、気づいたこと。
給料が入ったので、仕事終わりに業務用のウィスキー1.8リットルを買ったら、生活の中心がハイボールを飲むことになった。
料理をするにも、ハイボールに合うもの。
小説を書くお供にハイボール。
休日に昼からお酒を飲んで、腹を下す。
最近、気づいたこと。
友人の両親が聴覚障害者ということは知っていた。
その友人は音楽好きで、ライブハウスにもよく行っていた。
彼が音楽好きな理由を両親によるものだと考えるのは安易だと思っていた。
そんな彼の右耳が最近、聞こえなくなったらしい。
回復することを願っている。
最近、気づいたこと。
、少し前のオードリーのオールナイトニッポンで、「なぜか一回だけデートした相手っている?」という話題で盛り上がっていた。
なぜか一回だけデートした相手。
ふーむ。
随分前に、街コンで知り合った子と一度だけUSJに行ったことがある。
約束の時間になっても向こうから連絡はなく、今日は無しかな? と思って、そのまま本屋へ行き、USJの入館料くらいの本を買おう、と考えている頃に「寝坊しました」と連絡があり、結局行くことになった。
最近、気づいたこと。
気づいたら、佐久間宣行のラジオの過去の回を聞いている。全部、聞いているはずなんだけれど、ゲスト回だけまとめて聞くとかしている。
伊集院光、オードリーの若林、東京03の飯塚。
永遠に聞いていられる。
11月某日
職場の後輩が仕事終わりギリギリに突然「3.11とかの辛い現実を風化させないようにしましょう、みたいな言葉があるじゃないですか? 俺、アレ嫌いなんですよね。辛い現実を持ちづけるってしんどくないですか?」と言い出す。
そうだね、と頷きながら、けれど、そこには個人の体験を語る、ということと、後世に残す為に歴史的に語る、ということの違いがごっちゃになっている、ような気がした。
起きてしまった出来事でしか人は学べない瞬間があって、その起きてしまった出来事は個人から聞くしかない。そういう類の語り、というものは多分、絶対にある。
11月某日
カクヨムで「木曜日の往復書簡集」という連載を倉木さとしと毎週していた頃から、漫画を原作とした実写映画について語り合う連載をしたいね、という話をしていた。
正確には倉木さとしからの提案だった。
僕も倉木さんも結構、漫画の実写映画を見ていたので、「木曜日の往復書簡集」の続編として、そういう連載をしましょう、という話をした。
そんな中で、僕からどういう形の提案だったのか覚えていないが、2010年から2020年を年代順に二人で語って行く、という試みはいかがでしょうか? と相談をした。
倉木さんが承諾してくれたため、2010年から2020年までに上映された漫画の実写映画を語っていく連載をすることとなった
発表は2021年になるかと思うが、2010年から1年ごとに倉木さとしが推す一作、郷倉四季(さとくら)が推す一作、そして、掲載される2021年から振り返って重要な作品を選んでいく連載になる予定。
そんな訳で、僕は最近、漫画の実写映画をよく見ている。
「君に届け」「大奥」「GANTZ」「忍たま乱太郎」「モテキ」「スマグラー おまえの未来を運べ」「カイジ2 人生奪回ゲーム」「るろうに剣心」「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」「潔く柔く」「るろうに剣心 京都大火編」「るろうに剣心 伝説の最期編」「海月姫」「にがくてあまい」「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」「大奥 永遠[右衛門佐・綱吉篇]」「GANTZ PERFECT ANSWER」「好きっていいなよ。」
見ては年表と比べて何年の映画かと考える。
そんな作業が嫌いじゃない。
11月某日
休日だったのでカーペットを洗って、トイレのマットなども洗った。その後、阿部和重の「ミステリアスセッティング」を読む。
ケータイ小説サイトで連載されたものが単行本化しており、解説を読むと単行本の帯には「二〇一一年版マッチ売りの少女」とあったらしい。単行本の発売は二〇〇六年の十一月。
僕がまず、ケータイ小説で浮かぶのは「恋空」で、こちらが書籍化されたのも二〇〇六年だった。
当時を僕は知らないけれど、「恋空」的な恋愛小説が流行っているケータイ小説サイトの中で「ミステリアスセッティング」を連載していたのだと思うと、凄い以外に言葉がない。
阿部和重のインタビューなどを読んでいると「ミステリアスセッティング」でスーツケース型の小型核爆弾によって国会議事堂が爆破されて、日本の首都が山形県の神町に移転するきっかけとなったらしい。
そして、最新作の「Orga(ni)sm オーガニズム」では、首都となった神町にアメリカ大統領が視察にくる、という物語で主人公は阿部和重となっている。
「ミステリアスセッティング」が書かれた二〇〇六年から、二〇一九年に出版される「Orga(ni)sm オーガニズム」の構想がなされていた、という事実に驚嘆する他ないし、そんな重要な作品を(当時、流行っていた)ケータイ小説サイトに連載していたと言うのは、凄まじい何かを感じざるおえません。
何が凄まじいのか、分かりませんが、凄まじい。
そして、「ミステリアスセッティング」は最後まで読んで、まったく期待を裏切らない素晴しい作品だった。19歳の女の子をここまで不幸のどん底に落とし込むか、と恐ろしくもなりますが、決して絶望だけで終わっていないことも分かる。
もし、ケータイ小説サイトが「ミステリアスセッティング」のような作品ばかりだったなら、僕はケータイ小説作家を目指したことでしょう。
最近の僕は阿部和重のような作家になる為にはどうすれば良いのか、ということを考えながら日々の生活を送っている。
11月某日
今、千早茜の「あとかた」を読んでいる。
島清恋愛文学賞を受賞した作品で、直木賞の候補にも挙がっていたようだ。
まだ途中だけれど、面白い。
一文惹かれた台詞があったので、引用したい。
「生々しいのは嫌だよね」
「え」
「生活って生々しいじゃない。けど、その実、何もないんだよねえ。所詮、子どもだって妻だって他人だよ」
そう言った彼は生々しさから逃げて、職場の屋上から身を投げてしまう。女性は逆に生々しいもの立ち向かおうとして、不倫とか、セフレ関係を若い男と結んでいく。
僕は「あとかた」を恋愛小説と言うよりは、官能小説に寄っていて、しかし、そのどちらでもない人間の奥底にある目の背けたくなるズルさを描いているような気もする。
この小説がどのような結末を迎えるのか、僕はそれを見るのが少し怖くて、けれど、それを目の当たりにせずにはいられないんだと思う。
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