【世界教室】vol.4 シンガポールとお金の話
2011-12年、海外から日本の学校とオンラインで繋いで行うライブ授業「世界教室」と世界の街を走って旅する「旅ラン」をしながら世界一周約40ヵ国へ🌎 海外に行けない今だからこそ、一緒に行った気分になれるバーチャル冒険記を連載しています♪ 毎週1記事更新目標☺︎ 世界教室&旅ランの詳細はこちら
マレーシアからシンガポールへ初の陸路で国境越え。こんな荷物を背負って何しに来たのか、引き留められはしないかと緊張したが、呆気ない程簡単に入国出来てしまった。
国境というのは、いかにも現実的で残酷でもある。そこを境に一歩跨いだだけで、人の生活も建物もルールも、空気さえも変えてしまう。
シンガポールにそびえ立つ金融ビル群や煌びやかなホテルたちは、隣の国からグッと差を付けて建っていた。国の勢いと余裕さえ感じられて、日本のビル群ともまた違う。それは、日本全体が熱海くらい霞んでしまう程、明らかに活気に満ちていた。停滞している日本の危機を感じずにはいられなかった。
ホテルに到着すると、目の前にPASIR RIS PARKという公園があった。さすが先進国の街にはこういう施設が整っている。海を眺めながら走るランコースが爽快で、毎日ここを走るのがシンガポールの日課になった。
翌日は知人の紹介でプライベートバンカーのハルさんを訪ねた。ハルさんはスイス銀行で働いた後、シンガポールでプライベートバンカーをしているという、いわゆる金融のプロだった。経済成長著しい国でお金のプロに話を聞ける、なんとも贅沢な時間。
「キャージュアルなお店なので、キャージュアルな服で来てくださいね!」
ハルさんに電話を掛けると、今夜会う店を指定してくれた。“カジュアル”の発音が超ネイティブで面食らったが、彼はオーストリアと日本のハーフらしかった。電話からは彼の親しみ易さが感じられて、会う前から緊張が解けた。
約束の時間にお店で待っていると、ハルさんは日本人の奥さんを連れて、ラフなシャツで現れた。電話で感じた通り気さくで話し易い人だった。
「まずはシンガポール名物を食べましょう!」
ハルさんはそう言ってチリクラブをオーダーしてくれた。殻ごと豪快に真っ二つにされた蟹がピリ辛のソースと絡んでいて、見た目も豪華なご馳走だった。蒸しパンにソースを付けて食べるのがまた絶品だった。
食事をしながら、シンガポールに着いて感じた印象など話し始めると、お互いや仕事のことからシンガポールの政治、経済、教育など、二次会のスポーツバーで日を跨ぐまで、ハルさん夫婦との話は尽きなかった。
細部まで整えられたシンガポールに感嘆する一方、それだけ国が全てをコントロールしているという話は、膝を打って納得できた。聞いていると、開かれた北朝鮮というイメージがぴったりだった。
幾つも衝撃的な話があったが、一番ショックを受けたのは、金融のプロが発した日本経済への危機感。
「このままだと日本円が紙屑になることだってありえるんだ。」
日本で生活していたら、そう言われてもどこか半信半疑だった。けれど、シンガポールの勢いと日本の停滞を目の当たりにした今、その危機感は痛い程胸に刺さった。ハルさんは、世界一受けたい授業並みに、ハイパーインフレとデフレスパイラルについても分かり易く教えてくれた。
そして、プライベートバンカーという知らなかった世界を教えてくれた。
「普通の銀行と違って、何世代にもわたってその家族の幸せを守る仕事なんだ。
例えば、沢山の資産を持った親が、いきなり何百億ものお金を子どもに与えたらどうなると思う?
大金の使い方、扱い方がわからず、人生を狂わせたり、不幸になってしまうことだってよくある話。
だから、プライベートバンカーが、子どものうちからお金の教育をしていくんだ。」
「お金の教育って実際にどんなことするんですか?」
「そうだなぁ。例えば、ある年齢になったら一度まとまったお金を子どもに渡して、使う計画を一緒に立てたり、実際に使ってみてもらったりするんだ。最初は簡単なパーティーを開いてみたりね。
そして、また年齢が上がったら、今度はもう少し金額を増やしてまた何かに使ってみてもらう。
そうやって親から資産を受け継ぐ練習をしていくんだよ。」
ハルさんの話はまるで金持ち父さん貧乏父さんの実写版みたいだった。
「確かに、お金を稼ぐ方法ばかり注目してしまいますけど、上手に使う方法って意外と学べないですね。
貯金してばかりで、投資とかも知っているのといないのでは、また資産に差が出そうですね。」
「そうなんだ。あとは、クライアントの子どもが良い学校を探していたら代わりに提案もするし、資産が動くことであれば彼らの生涯に渡って関わっていくんだ。」
知らなかった富豪の世界は実に興味深い。それから話は教育へと移っていった。
「日本の学校でもお金の教育があるといいですね!シンガポールは教育もしっかりしていると思いますが、お子さんにはインターナショナルスクールに通わせたいですか?」
妊娠中の奥さんがつかさず「私はインターがいいと思っているの。」と。
しかしハルさんからは意外な返事が返ってきた。
「僕は日本の学校に通わせたいんだ。勉強は外で学ぶ方法はいくらでもあるけれど、日本人特有の規律を守ることや日本人らしい感覚などは、日本の学校でしか身につけられないと思うんだ。僕は日本人のそういうところが素晴らしいと思っているし、子どもにも身につけてもらいたいと思う。」
世界の富豪を相手にしているハルさんにそう言われるとなんだか自信が湧いて、海外に出ても日本人らしさは大切にしていきたいと思った。
ハルさん夫婦と別れた翌日、私たちはカジノを覗いてみた。他国の人は無料でシンガポールの人は100ドルの入場料がかかる。他国の人にはどんどん来て欲しいけれど、自国の人にはカジノをして欲しくない現れでもある。シンガポールでは家族がカジノに溺れるようなことがあれば、電話で相談する窓口もあるらしい。
世界各国の人が国にお金を落としていく場面を目の当たりにした。数千ドル、数万ドルのお金が動いて、一瞬のうちに目の前の人がお金を落としていた。
これでまたシンガポールが潤うのか...。
お金について考えずにはいられないシンガポールの毎日だった。
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