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雨の中の散歩
最近、夕方に母と散歩をしています。昨日は雨が降っていたのですが、風もなかったし、かっぱを着れば大丈夫だろうということで、決行しました。
上下ウィンドブレーカーを着て、長靴を履こうと思ったら、足の裏にむにゅっとした感触がありました。なんだ?と思って見てみたら、いつぞやの靴下が、丸まって入っていました。長靴を脱ぐ時に自然に脱げてしまった靴下を、そのまま放置していたと思われます。両足とも入っていました。
傘をさし、ようやく出発しました。雨の音でかき消されると思ったのか、母と私は、水前寺清子さんの『三百六十五歩のマーチ』を、わりと大きな声で歌いながら歩いていました。すると、母がいきなりすんっと静かになりました。
「誰かいる」
低い声でそう言った母は、まるで映画の主人公のようでした。ハッとして私が前を向くと、車の荷台に何かを積んでいる人の姿がありました。絶対に聞こえている。そう思いました。
その人が遠くなったので、今度は坂本九さんの『見上げてごらん夜の星を』を歌いました。私はハモろうと思ったのですが、母は音痴なので、すぐに私についてきてしまい、全然ハモれませんでした。
次に、玉置浩二さんの『ワインレッドの心』を歌いました。でも二人とも歌詞がうろ覚えだったので、すぐに終わりました。
今度は、あみんさんの『待つわ』を歌おうと母が言うので、私は前奏から歌い始めました。しかし、ちょうど歌に入ろうとした所で、またもや車の影から人が出てきました。私はすぐに黙りました。
苔が生えた歩道橋を渡り、『待つわ』をハモろうとしましたが、これもまた、全然ハモれませんでした。
帰り道、雨がだんだん強くなってきました。水溜りの街灯が映っている所に雨が当たると、線香花火みたいできれいでした。
家に帰ると、さっき投げ捨てていった靴下が、お出迎えしてくれました。
母の長靴には、おみやげがついていました。
楽しい散歩でした。