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冬の海は好きですか?

亡くなった前夫の実家は海から徒歩数分のところにあった。

私が彼と結婚する時には、彼は実家を二世帯住宅に改築した家に一人で暮らしていて、私はそこに転がり込むような形で一緒に暮らし始めた。

海がこんなに近いなら、と、サーフィンを本格的に始めたのはその時だ。

その頃、亡夫に言われたことで、今も時折思い出す言葉がある。

「海の近くに住んだら、きっと冬の海が好きになるよ」

言われた時は、「そんなものかな?」と思った程度だったが、今はよくわかる。

気づけば私は、冬の海が好きになっているからだ。

もちろん、夏の海も好きだ。

でも、夏の海は、表の顔って感じがするのだ。

人気ミュージシャンに例えるなら、コンサートで見せる顔。

そりゃ、一番かっこいいところだし、見る側も見る側でわーきゃー騒ぐことが楽しみ方でもある。

一方で、冬の海は、舞台を終えて、一人になったミュージシャンという感じがする。

道を歩いていたら、もしかしたら誰も気づかないかもしれない。

本人も、きっと気づかれなくていいと思っている。

でも、私は、知ってるんだ。そんな裏の顔も素敵だって。

いや、裏の顔こそかっこいいって。

そんな裏の顔をかっこいいと思えている自分にちょっと酔っていたりもする部分もあるかもしれない。

私はみんなが騒がない時の本当の彼(海だから本来は彼女か)を知っているのよ、みたいな。

私は、夏を終えてめっきり寒くなった季節、しかも早朝にサーフィンをするのが好きなのだが、それは他のどの時間帯よりもラインナップにいるサーファーの一体感が感じるからでもある。

だって、そこにいるのはみんな、夏の表の顔だけでは物足りずに、冬の裏の顔まで追っかけちゃうくらいの海ファンだからね。

そんな海ファンを続けて12年。

誰に頼まれているわけでもないのに夜明け前に起きて、「寒い寒い」と言いながら冷たい海に入ってきたけれど、肝心の海からは一向に振り向いてもらえず万年片思いしている感も否めない。

でも、そういうのも全部含めて、やっぱり海が好きで、サーフィンが好きなんだよなぁ。

パコーンと容赦なくひっくり返されて、めっちゃくちゃにされる日もあるかと思えば、とんでもなく優しく包み込んでくれる日もあったりして、ツンデレ半端ないところも、たまらないのです。

いつか両思いになれる日はくるんだろうか?

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