見出し画像

珍客万来

犬が裏庭で何やら騒がしい。

何度か書いたが、我が家の裏庭は柵を隔てて裏山とつながり、その裏山は大きな自然保護区につながっているので、コヨーテが歩いていることは珍しくない。

だからきっと犬たちはコヨーテに吠えているのだ、いつものことだ、と最初は気にしなかった。

しかし、どうやらいつもと調子が違う。

何に吠えているのかと窓の向こうに目をやると、コヨーテに対して吠えているならまず裏山を見ているはずの犬たちが、地べたを見て吠えている。

一体、何だ?

念のため、犬たちを家の中に呼び戻してから、恐る恐る確認しに行くと、そこにいたのは…

亀。

この遭遇はさすがに予想外だったので、私はものすごく焦った。

冷静になればたかだか亀で、そこまで恐れることはないとわかるのに、もしかしてスッポン? だとしたら犬が噛みつかれたら大変! っていうか、聞いたことはないけれど毒亀? と私の頭はわずか数秒で不安だらけに。

そういえば、先日、Google Lensってやつの使い方を教えてもらったばっかりだったわと思い出し、早速活用してみた。

亀は、Peninsula cooterと認識された。

フロリダに生息する亀。

よく見るとPeninshula cooterとは頭の色が違うように思ったが、少なくともCooterという種類の亀ではあるらしく、獰猛ではないとわかってホッ。

しかし、今度は疑問が出てくる。

一体なぜ、我が家の裏庭に?

もしかして、どこかでペットとして飼っていたものが逃げてきた?

1分の間に30個ほどの「???」が出てきた気がするが、こういうことは専門家に聞くのが確実だと考えて、サンディエゴ地域のアニマルサービスに電話してみた。

「裏庭に亀がいて」というと、「あらま。それはずいぶん珍しいことですね」と驚かれた。

やっぱりそうか。

気になるのはどうすればいいか、ということなのだが、Cooterという亀はカリフォルニアにも普通にいる野生動物とのことで、「そのままにしておいてください。一日もしないうちにどこかに行っちゃうはずだから」と言われた。

果たして、夜までは確かに目に見えるところにいた亀、翌朝には消えていた。

何という珍客。

思えば我が家の裏山の柵を越えてやってきた動物は亀だけでない。

野うさぎ、アライグマ、そして、鳥に関していえばこれまで家の中に入ってきて犬たちが追いかけ回して大騒ぎになったことが二度もある。

昨年はガラガラヘビがガレージで休憩していたし、今年は家の玄関前にあるジャカランダの木でハチドリが営巣している(こちらも二回)。

ずいぶんと田舎に暮らしている気分だ。

っていうか、田舎なのだろうな、自分達が思っている以上に。

幼い頃、ムツゴロウさんの動物王国に憧れて、あんなふうに暮らしてみたいと夢見たこともあったが、実際にあれをやるとなるととっても大変で、よほど情熱がないとできないことは大人になればわかる。

こんなふうに、時々、お客さんとして動物が来てくれるのが私にはちょうどいいかもしれない。

犬たちは昨日の亀のことを覚えているのか、いないのか、今朝、裏庭に放つと、亀がいたところをなぞるようにクンクンと匂いを嗅いでいた。

 それにしてもほんと、どうやってこの庭に来たのだろう?

ペットが逃げた可能性も捨てきれなかったので調べてみたが、カリフォルニアではそもそも亀の売買が法律で禁止されているらしい。

知らなかった。

ということは、亀をペットにしている人もまずいないということで、どこかのペットの亀が逃げた可能性は低そうだ。

とすると、はるばる歩いて来た冒険野郎だったのか? 

それとも、うっかり鷹や鷲に捕まってしまったけれど落とされて命拾いしたラッキーボーイか?

どっちにしても、ちょっと数奇な運命の亀ではあるだろうな。

どうか、無事に行きたいところに辿り着いて、安寧に暮らしてほしい。

なんて、つい肩入れしちゃうのは、どこかに自分を重ねているからかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?