COP29開催国アゼルバイジャンの課題と期待
2024年11月11日から、アゼルバイジャンでは国際的な気候会議「COP29」が開催されます。COP(Conference of the Parties)は国連が主催する気候変動対策のための国際会議で、各国が地球温暖化防止に向けた協力を話し合う重要な場です。COP29は特に「気候資金(climate finance)」についての合意を目指しており、アゼルバイジャンは議論を導く立場として重要な役割を担っています。
しかし、アゼルバイジャンはアゼルバイジャンは石油生産量が多く、経済の大部分を石油・ガスに依存している「ペトロステート(石油依存国家)」で、環境保護の取り組みが十分ではないとされています。このため、気候対策のリーダーとしての信頼性に疑問が投げかけられています。
アゼルバイジャンの気候リーダーとしての挑戦
アゼルバイジャンはロシアとイランに挟まれた位置にあり、石油と天然ガスに大きく依存する国です。エネルギー収入に支えられている経済構造のため、気候変動対策におけるリーダーシップを発揮する立場にはあまり適していないとされています。それでもアゼルバイジャンは2024年のCOP29の主催国となり、2026年には「世界環境デー」や生物多様性に関する国際会議の開催も予定しています。
このように、国際社会の気候変動の課題におけるリーダーとしての責任が増していることもあり、アゼルバイジャンは自国の化石燃料依存から脱却し、持続可能なエネルギーへの移行を急ぎ、気候外交における信頼性を構築するための対策が急務となっています。
化石燃料依存とエネルギー外交のジレンマ
COP29を迎えるアゼルバイジャンにとっての課題は、そのエネルギー政策と気候対策の整合性です。アゼルバイジャン政府は、自国の石油・ガス産業を維持するために、EUに対して天然ガスの輸出拡大を要請しているほか、今後もヨーロッパがアゼルバイジャンのガスに依存し続けるよう支援を求めています。これは、化石燃料への依存を続けたいという意図の表れであり、持続可能なエネルギーへの移行と矛盾しています。
一方で、化石燃料依存が高い他の国々と建設的な対話を通じて、脱炭素化に関する具体的な議論を深める可能性もあります。こうした場で化石燃料依存からの脱却がいかに困難かを率直に議論できれば、これまで以上に実質的な成果を生むきっかけになるかもしれません。
国内の市民社会との協力不足と抑圧的な政治体制
国連の気候会議では、市民社会や専門家、環境保護団体などの幅広い意見を反映させることが求められています。しかし、アゼルバイジャン国内では市民への抑圧が続いており、環境保護活動を含む独立した団体の活動が制限されています。このため、COP29が主張する「多様な意見を取り入れる包括的な会議」が実現されるかどうかは不透明です。
地政学的な立場からのリーダーシップの可能性
アゼルバイジャンは独立後、特定の政治ブロックに偏らず、「非同盟運動」に参加するなど中立的な立場を維持してきました。こうした柔軟な外交姿勢を活かして、多様な国々の意見を調整し、COP29での合意形成を後押しできる可能性もあります。例えば、気候資金に関する「新たな量的目標(NCQG)」を確立するために、アゼルバイジャンが橋渡し役を担うことで、各国間の協力を促進できるかもしれません。
「気候資金」を拡大できるか、NCQGの特徴と目指すもの
COP29では、途上国の気候対策を支援する「気候資金」を拡大するため、新たな目標(NCQG)を設定することが求められています。これまでの取り決めでは、先進国が途上国に年間1,000億ドルを支援することが目標でしたが、実際にはその目標は2022年に一回達成された以外は達成されておらず、さらに多くの資金が必要とされています。これを受けて、気候資金の新たな合意に向けて各国が協力し、具体的な成果を生むことが期待されています。
より大規模な資金提供:NCQGは、単に1,000億ドルの目標を引き継ぐのではなく、数千億ドル、あるいは兆単位の資金が必要とされる可能性があり、途上国が求めている野心的な資金目標を設定することが期待されています。
透明性と監視:NCQGでは、資金の使途や進捗状況を明確にし、資金提供が気候変動に真に役立つ形で利用されるようにすることが重視されています。これは、従来の気候資金が必ずしも途上国にとって効果的に使われていないとの批判に応えるためです。
公平性と条件付き支援:NCQGは、特に脆弱な途上国(小島嶼国や最貧国)への支援に焦点を当て、気候変動の影響を最も受けやすい国々が優先されるように配慮することが求められています。また、途上国の中には、NCQGが強固な気候政策や良好なガバナンスといった条件付き支援を含む形で設定されるべきだとする意見もあります。
気候変動の「損失と被害」への対応:NCQGは、気候変動による回避不可能な損失や被害(「損失と損害」)に対応するための支援も含むことが期待されています。これにより、災害などで影響を受けた途上国が復旧と適応に必要な支援を迅速に受けられる体制を整えることが求められます。
NCQGの導入には、各国間の合意形成が必要で、先進国と途上国の間で資金の規模や提供の条件をめぐる調整が難航する可能性があります。NCQGは、気候資金に関する次世代の目標として、途上国が気候変動に対応するための資金援助を拡大し、その資金の効果を最大化するために重要な役割を果たすものです。COP29でNCQGが設定されれば、気候変動に対するグローバルな対応がより具体的な形で進むことが期待できます。
「平和COP」としてのテーマ設定
アゼルバイジャンは今回のCOP29を「平和COP」として開催することも表明しています。特に隣国アルメニアとの和平プロセスをアピールすることで、地域の安定を強調する狙いがあります。しかし、和平のテーマに偏りすぎると、COP29の本来の目的である気候問題から注意が逸れてしまうリスクも指摘されています。
COP29を成功させるための提言
アゼルバイジャンが効果的な気候リーダーシップを発揮するため、以下のような提言がなされています:
化石燃料依存の課題を公に認め、国際社会と連携する:アゼルバイジャンは、気候リスクと化石燃料依存のジレンマを率直に認め、他国からの支援を求める姿勢が求められます。
エネルギー移行の地政学的課題を共有する:アゼルバイジャンは、次回開催国のブラジルやUAEと協力し、化石燃料の未来についての難しい問いをCOP29とCOP30で中心議題として取り上げ、脱炭素化の道筋を示すべきです。
国内の市民社会との協力を強化する:市民社会の活動は、気候行動の多様性や革新性に貢献します。国際社会はアゼルバイジャンの人権記録にも目を向け、国内での市民社会の参加を促進する圧力をかけるべきです。
平和と気候の関連を強調する:隣国アルメニアとの協力を通じて、気候リスクと平和の関連性を訴えることで、国際社会に対しても「気候平和」を訴え、実質的な成果を示すことが大切です。
COP議長に対するベストプラクティスの確立:COPの議長国としての役割についての基準を策定し、未来の気候会議の信頼性を高めることが求められます。
COP29でのアゼルバイジャンの成功は、気候変動対策の進展に欠かせません。国際社会が求める具体的な成果と、アゼルバイジャンが果たすべき役割が今後どのように調和するかに注目が集まっています。