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発展途上国への資金提供のリアル __世界銀行の資金調達が成功❕

世界銀行グループのIDAは、貧困削減と持続可能な開発のために資金を提供する機関として広く知られています。このIDAの第21次増資は「IDA21」と呼ばれ、これまで以上に力が入り、皆の注目を集めました。12月6日には、その成功が発表され、発展途上国における持続可能な成長への大きな一歩と歓迎されました。今回は、このIDA21の成功について、深掘りしてお話しします。


IDA21の概要と成功のポイント

IDA21は総額約1,000億ドルの資金を確保しました。この資金は以下のように構成されています。

  1. 各国政府からの拠出金 約237億ドルが各国政府の直接的な拠出金として提供されました。アメリカ、ヨーロッパ諸国、日本を中心とする主要寄付国が主な貢献者です。

  2. 資本市場からの調達 IDAは、これらの拠出金を基にして約500億ドルを資本市場から調達しました。この仕組みにより、拠出金を活用して大規模な資金を確保することが可能となりました。

  3. 過去の融資の償還金 過去のプロジェクトからの償還金として、約190億ドルが加わりました。

これにより、2024年から2026年の3年間で最貧国を対象とした幅広い支援が行われる予定です。

成功の要因

  1. 革新的な資金調達モデル 世界銀行は、各国政府の直接的な拠出金だけでなく、資本市場からの借入や過去の融資の償還金も活用することで支援規模を大幅に拡大しました。

  2. 寄付国の強いコミットメント アメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などの主要寄付国が引き続き積極的に支援を行い、新興国からの参加も増えています。

  3. SDGs(持続可能な開発目標)との連携 IDA21の資金は、特に貧困、教育、保健、水資源、ジェンダー平等などのSDGs達成を目指したプロジェクトに重点的に配分されます。


COP29と途上国支援金との関連

先日アゼルバイジャンの首都バクーで開催されたCOP29でも、気候変動対策に関する新たな枠組みと並行して、資金調達が大きく議論されていました。途上国に対する支援金についても重要な議題の一つとなり、その中で世界銀行の幹部たちが、IDAの意義や、今回の資金調達の成功に向けて、参加者に強く訴えかけていました。

COP29で合意された支援金の概要

COP29の結果、先進国は年間3,000億ドル規模の支援を途上国に提供することを約束しました。この資金は以下のような分野に使われる予定です。

  1. 再生可能エネルギーへの投資 太陽光や風力発電プロジェクトの拡大。

  2. 気候変動への適応策 災害リスク管理、洪水防止、農業の気候適応技術。

  3. 森林保護と炭素吸収源の強化 森林再生プログラムや炭素市場の整備。

IDA21との関連性

COP29で約束された年間3,000億ドルの支援には、世界銀行のIDAからの拠出が 部分的に含まれる とされています。

  • IDA21の資金のうち、約35%から40%が気候変動関連プロジェクトに直接投資されると予想されています。このため、IDA21からの支援はCOP29の3,000億ドル目標の一部にカウントされる可能性があります。

  • COP29の支援金が主に気候変動分野に特化している一方で、IDA21は包括的な開発資金であり、保健、教育、インフラ整備などにも資金を配分します。

IDA21の成功とCOP29の目標は相互補完的な関係にあり、両者の協力を通じてより効果的な支援が可能となります。


Ajay Banga CEOの声明

世界銀行のCEOであるアジャイ・バンガ氏は、IDA21の成功について次のようにお話しされていました。

"この成功は、世界が最貧国を支援し、気候変動や格差といったグローバルな課題に取り組むための決意を反映しています。私たちは、これを単なる資金調達と見るのではなく、未来への投資と位置付けています。"

これは、IDA21が単なる開発資金の提供ではなく、国際社会の協力を基盤とした包括的な取り組みであることを強調しているように思います。

世界銀行のAjay Banga CEOとCOP29にて

世界銀行の資金調達と貸出金利

平均調達金利

2023年の市場状況を踏まえると、世界銀行はAAAの信用格付けを持つものの、資本市場での資金調達コストが上昇しています。特に米国の金利上昇が影響を与えており、新規債務契約の平均調達金利は 4.09% と報告されています。これは前年に比べて約2.1%ポイントの上昇を示しています。

貸出金利

2023年の全世界的な途上国向け債務契約における商業銀行やその他民間金融機関を含む平均金利は6%とのことです。一方、世界銀行の国際開発協会(IDA)は以下のような非常に優遇された条件で融資を行っています。

  • 無利子融資:IDA適格国に対しては、ゼロ金利または極めて低金利での融資を提供しています。

  • 長期固定金利融資:通常、30年以上の長期融資を提供し、途上国における負担を最小限に抑えています。

調達コストへの対応

世界銀行は、資金調達コストが上昇する中でも、以下の方法で影響を抑えています。

  1. 多通貨での資金調達:米ドル以外の通貨での資金調達を行い、金利上昇の影響を分散しています。

  2. デリバティブの活用:金利スワップやその他のリスク管理手法を用いて、変動金利リスクをヘッジしています。

  3. 補助金や無償資金の提供:最貧国向けには、補助金を組み合わせた支援を提供することで、実質的なコストを低減しています。


資金の具体的な使い道

IDA21の資金は以下のような分野に重点的に投資されます。

  1. 教育 教育機会の拡大と質の向上を目指し、特に女子教育に重点を置いています。

  2. 保健医療 基本的な医療サービスの提供、感染症の予防、パンデミック対策への投資。

  3. インフラ 持続可能な交通、エネルギー、水供給システムの構築。

  4. 農業と食料安全保障 気候変動に強い農業技術の普及と食料供給の安定化。

  5. ジェンダー平等 女性の経済的エンパワーメントを促進するプロジェクトの支援。



他のMDBとの比較と協業

世界銀行以外の多国間開発銀行(MDB)も途上国支援において重要な役割を果たしています。IDA21の成功は、これらの機関との協力をさらに深化させる契機ともなっています。

アジア開発銀行(ADB)との比較

  • 重点分野: ADBはアジア太平洋地域を中心に活動し、特に再生可能エネルギーやエネルギー効率化プロジェクトへの投資に注力しています。2023年には、低所得・中所得国向けに107億ドルの気候関連資金を提供し、そのうち約43%を適応策、57%を緩和策に投資しました。

  • 協業の可能性: ADBとIDAは共同で再生可能エネルギープロジェクトや地域間の気候変動適応策を推進しています。

アフリカ開発銀行(AfDB)との比較

  • 重点分野: AfDBはアフリカ地域に特化し、農業や再生可能エネルギーへの投資を通じて気候変動への適応能力を強化しています。2023年には、気候変動適応資金として30億ドル以上を投入しました。

  • 協業の可能性: AfDBとIDAはアフリカにおける持続可能な農業や気候変動への適応プロジェクトを共同で進めています。

アフリカ開発銀行総裁のAkinwumi Adesina氏と

欧州投資銀行(EIB)との比較

  • 重点分野: 欧州投資銀行(EIB)は、気候変動対策を最優先課題としており、2023年には全体の融資の58%を気候変動関連プロジェクトに投資しました。特に再生可能エネルギー、エネルギー効率化、都市の持続可能な交通システムへの投資に注力しています。

  • 協業の可能性: EIBとIDAは、気候変動対策において補完的な役割を果たし得ます。例えば、EIBの技術支援や専門知識と、IDAの広範な資金調達能力を組み合わせることで、途上国での効果的なプロジェクト実施が可能となるでしょう。

欧州復興開発銀行(EBRD)との比較

  • 重点分野: EBRDは主にヨーロッパおよび中央アジア地域で活動しており、エネルギー効率化と再生可能エネルギープロジェクトに注力しています。2023年には約46億ドルを気候変動関連のプロジェクトに投資し、その多くが緩和策に向けられています。

  • 協業の可能性: EBRDとIDAは気候変動緩和策の資金調達と技術支援で協力する余地があります。

Nadia Calviño さんと。彼女は、the European Investment Bank (EIB) のプレジデントです

IMFとの協業

IMFは主にマクロ経済政策と金融安定性を担当しますが、IDAとの協業を通じて以下のような相乗効果がありそうです。

  1. 気候資金の拡充 IMFの気候適応ファシリティとIDAのプロジェクト資金が補完的に活用されます。

  2. 債務管理支援 貧困国が過剰な債務を抱えないよう、IDAとIMFが連携して適切な債務戦略を設計されます。

  3. 政策改革の推進 IMFの政策助言を活用し、IDAのプロジェクトがより効果的に実施されるよう支援がなされます。


IMFのプレジデントの Kristalina Georgievaさん

今後の展望

IDA21の成功は、世界銀行だけでなく、他のMDBや国際機関との協力を通じてさらなる効果を生む可能性を秘めています。今回のCOP29を契機に、IDAの取り組みが気候変動対策や持続可能な開発にどのように貢献していくかが注目されます。これにより、途上国が直面する課題の解決が加速することが期待されています。

今後は、IDA21の成果が実際のプロジェクトにどのように反映されるかを引き続き注視していく必要があります。他のMDBとの協業を強化し、途上国の発展を支える包括的な仕組みがさらに進化することが求められるでしょう。

また、COP29での合意内容に基づき、年間3,000億ドルの支援目標にIDA21の資金がどのように組み込まれるか、具体的な役割分担の議論も重要です。IDA21とCOP29の連携により、気候変動や貧困などのグローバル課題に対する効果的な解決策を実現できることを期待しています。

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