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食べられないお米で紙を作った人がいると聞いて会ってきた

突然ですが、食べられないお米で作られた紙があるのをご存じでしょうか?

その紙の名は、kome-kami(コメカミ)。
今年2024年の3月には、姉妹品のkome-kami浮世絵ホワイトが発売されました。

左:kome-kami(ナチュラル色)、右:kome-kami浮世絵ホワイト

え?紙ってお米で作れるの?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、厳密にいうとお米だけでは作れません。
原料の木材パルプにお米を混ぜ込んで作られています。(こういった木材パルプ以外の素材を混ぜ込んだ紙のことを、混抄紙(こんしょうし)といいます)

このkome-kamiの画期的なところは、混ぜ込んだだけではなく、紙を作る際に使う化学薬品の代替品にもお米が使われているところ。
それが「コメバインド」「コメグロス」です。

コメバインド…お米で作った糊。通常、紙にはパルプを結合させて紙の強度を高める化学薬品が使われているが、kome-kamiはこの化学薬品を全てなくし、コメバインドで代替されている。

コメバインド

コメグロス…原料の一部にお米を使用した、印刷の発色を良くするための塗工液。kome-kami浮世絵ホワイトに塗られている。

コメグロスを紙に塗布している様子

混抄紙自体はいろいろな種類があって、小豆殻やコーヒーかすが混ぜ込まれたものなど、さまざまな紙が市場に出回っています。ですが、素材を混ぜ込むだけでなく化学薬品にまで使われている例は他にはないんじゃないかなぁと思います。

化学薬品をお米に代替すると、通常の紙の製造よりも排出されるCO2が削減できるそうで、kome-kamiの場合は約62.8㎏(1ロット5t製造時)、kome-kami浮世絵ホワイトは約104㎏(1ロット6t製造時)の削減が実現できたとのこと。ちなみに、お米を混ぜ込むのもCO2削減になっているそうですよ。

しかもkome-kamiの場合、普通のお米ではなくて、加工や流通の段階でどうしても出てしまう食べられないお米が使われているんです。つまり、食品ロス削減に貢献できる紙というわけですね。さらに売り上げの1%をフードバンクに寄付されているそうで、まさにサスティナブル!

SNSで存在を知って以来、ずっと気になっていた紙だったんですが、なんとこの度、開発者である株式会社ペーパルの矢田和也さんにお会いして、お話を聞くことができましたーー!!!お忙しいところありがとうございます!!

矢田さんのこれまでから開発に至った経緯、kome-kamiの魅力などたっぷりお聞きしましたので、今日はその模様を詳しく&楽しくお伝えできたらなと思います。

パソコン大好き!?ウェブの世界から紙業界へ

インタビューにご協力くださった、(株)ペーパルの矢田和也さん

kome-kamiの販売元である株式会社ペーパルは、奈良県で明治23年から続く老舗の紙問屋です。しかし、矢田さんは紙一筋というわけではなかったようで……。

矢田さん:大学時代はシステムの勉強をしていて、画像認識の研究をしていました。今は画像認識が普及しましたが、私が大学生だった17年くらい前は、まだまだ実用化されていなかったんですよ。
当時、研究室で麻雀が流行っていたので、麻雀の牌にスマホをかざせば、次にどんな手を打ったらいいかを提案してくれるアプリを作ったりしていました。

大学卒業後、そのままシステムの道へ進んだ矢田さん。就職先の富士通株式会社では、らくらくスマートフォン内のアプリ開発や、シニア向けSNSの企画などに携わっていたそうです。

矢田さん:いかにITに慣れてない年代の方々が、安心してネットの世界を楽しんでくれるかを考える仕事をしていました。コンシューマー向けのウェブの世界で、結果が出るのが楽しくて。パソコン大好き、システム大好きだったので、実はあまり紙に興味がなかったんです(笑)。
ですが、「家業へ戻って」という話になって、2019年に(株)ペーパルに入社しました。

「どうせやるなら誰かの助けになりたい」お米入りの紙の開発へ

ウェブの世界から紙の世界へ飛び込んだ矢田さん。
入社から約一年後、kome-kamiの開発を始めます。きっかけは、フードバンクの顧問をされている滋賀大学の准教授の方のお話でした。

矢田さん:たとえば賞味期限切れ前の食べ物を運んで、困っている方に配る活動をされているフードバンクの場合、物流にお金がかかり、賞味期限切れの食品を回収すれば回収するほど出費が増えるそうなんですね。
寄付や市の助成金では賄えず、理事の方が「やらないといけない」という思いだけで持ち出したりしている団体もあるのが現状だそうです。
「そういった課題をビジネスで解決したい」とおっしゃられていたのを聞いて、紙でそういう仕組みを作りたいと思ったのが開発のきっかけです。
どうせやるなら誰かの助けになることができるなら一番幸せだなあ、と思って。

フードバンクを色々と回って話を聞く中で、矢田さんはお米を使うというアイデアにたどり着きます。

矢田さん:フードバンクにお米はたくさん届くそうなんですが、傷んでいるものが届くことも少なくないというお話を聞きました。フードバンク以外に食品工場にもヒアリングしたところ、使いきれなくて廃棄してしまったり、飼料にしか使えないものもあると言われて。それを捨てないで資源として使えないかと思い、いろいろと調べていたら、鎌倉時代の文献で「紙にお米を使っていた」と書いてあるものがあったんです。

浮世絵(イメージ写真)

矢田さん:さらに調査を進めると、木版印刷がでてきた江戸時代には、浮世絵の発色を良くするためにお米が紙に使われていたことがわかりました。お米を入れることで表面をなめらかにして、紙の繊維の間を埋めると、綺麗に印刷できたみたいで。
「これは紙にお米だ!!」と思ったんです。

矢田さんのアイデア力と実行力、すごい…!!

矢田さん:ちなみにkome-kamiという名前は、色々ヒアリングして回っていたときに、「こんなアイデアなんです」と説明したら、「それ、コメカミっていう名前がいいなあ」って言った人がいたんですよ。「いいですね」って言ってその名前をもらいました(笑)。

本当は塗りたかった!kome-kami浮世絵ホワイトの実現へ

そうして約1年かけて商品化されたkome-kami。当初はお米をパルプに混ぜたのみの混抄紙だったそうです。しかし矢田さんは、飽くなき探求心でさらに開発を進めていきます。

矢田さん:ずっとお米を混ぜただけじゃ面白くないな、と思っていたんです。昔からお米入りの紙は作られていましたが、それって混ぜるのが目的ではないんですよね。紙を白くしたいとか、発色を良くしたいとか、そういった「機能」を出すのが目的だったんです。だから、混抄紙として紙ができあがったあとも、ずっと研究を続けていました。

研究の結果、最初に作った混抄紙と同じ品質で、化学薬品の代わりにコメバインドを使った今のkome-kamiが完成します。
しかし、最初の構想は「塗る」ことだったそうで……。

矢田さん:一番最初の構想では、浮世絵の発色を良くするためにお米が使われていた点を踏まえて、お米を塗ろうと思っていたんです。けど、全然実現できなくて。
諦めずに研究を続けていたら、どうやら塗れそうだ、ということがわかってきたんですね。それがお米でできた塗工液「コメグロス」です。塗るならやっぱり紙も白くして、発色の良さを前面に打ち出した紙を目指したいと思い、kome-kami浮世絵ホワイトの商品化に至りました。

いろいろな場面で活躍するkome-kami

現在、kome-kami・kome-kami浮世絵ホワイトともに、パッケージや名刺、冊子など、いろいろな場面で使われています。

矢田さん:kome-kamiを発売したとき、最初の半年はなかなか売れませんでした。どうしようかな、と思っていたんですが、徐々に認知度が上がってきて、今では多くの方に受け入れられています。

kome-kamiのInstagramではさまざまな採用事例が紹介されています

kome-kami浮世絵ホワイトは、2024年7月~9月にあべのハルカス美術館で開催されていた「 広重 ―摺の極―」展のグッズにも採用されたそう。

矢田さん:浮世絵を印刷したものなんですが、何種類もの紙をテストしたうえで、kome-kami浮世絵ホワイトが採用されたそうです。

「 広重 ―摺の極―」展のグッズ
「 広重 ―摺の極―」展のグッズ

現物を見せていただくと、たしかにとても発色がいい…!!しかも手触りが優しくて、まるで塗工液を塗っていない非塗工紙のようです。

どうしてキラキラするの?kome-kami浮世絵ホワイトの秘密

kome-kami浮世絵ホワイトは、表面にお米で作った塗工液「コメグロス」が塗られています。
塗工液を塗った紙(塗工紙)は、印刷上がりが良くなる一方で、ラフ肌だととしても手触りに若干薬品感が残るなーと個人的には思っているんですが、kome-kami浮世絵ナチュラルはまるで何も塗っていない非塗工紙のような触り心地!それでいて発色が良いのは、画期的なのではないでしょうか。

印刷面にグロスが出ている

矢田さん:kome-kami浮世絵ホワイトは塗工量がとても少ないので、分類としては非塗工紙になりますね。でも、塗っているのは事実です。
コメグロスは普通の塗工液に比べてナチュラルなので、そこまで綺麗に塗れないんですよ。ですが、そのゆらぎのおかげで印刷したときにキラメキが生まれていることが、研究結果としてわかってきました。

kome-kami浮世絵ホワイトのキラメキについては、研究所と研究を重ねて、学会発表もされたとのこと。

風合いのある塗工紙は重ねたりやこすれたりすると汚れてしまうときがあるのですが、kome-kami浮世絵ホワイトはそれもなさそう。

矢田さん:私の名刺は、下の図柄部分だけオフセット印刷をしているのですが、名刺入れにずっと入れていても裏写りとかはないですね。

矢田さんの名刺

お話を伺っていると、汚れにくいのもkome-kami浮世絵ホワイトの魅力の1つとして数えられるんじゃないかと感じました。印刷しても汚れにくいなら、ニスも塗らなくていいし、コスト削減につながりますね。

北斎を現代風にアレンジ!見本帳の完成

名刺に印刷されている図柄は、kome-kamiが収録された見本帳と同じもの。
見本帳のデザインを担当されたのは、パッケージデザイナーの三原美奈子さんです。

見本帳はブルーと紅の2種類。中身は同じです

矢田さん:三原さんは日本パッケージデザイン大賞のボディ&ヘルスケア部門で銀賞を受賞した「madoca」や、ヤンマー東京の開業記念で配られたお寿司のパッケージなど、kome-kamiを使ったパッケージのデザインを手がけられています。kome-kamiにご縁のある方ということで、お願いしました。

個人的に購入した「madoca」。中身は固形シャンプー。とっても可愛いパッケージです
パッケージにはkome-kamiが使用されている旨が記載されています

葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をモチーフにした見本帳は、とってもカッコいい!!矢田さんもお気に入りだそうです。

矢田さん:kome-kami浮世絵ホワイトは、浮世絵を参考にして現代風に作り直した紙なので、北斎のグレート・ウェーブを現代風にデザインしていただきました。
個人的にA4で印刷して、額縁に入れて飾ってます(笑)。

ちなみにこちらの見本帳は、kome-kamiだけでなく、(株)ペーパルが販売するフードロスペーパーの商品の見本が入っています。
ニンジンの皮が混ぜ込まれたvegi-kami-FS にんじん や、クラフトビールを醸造する過程で廃棄されるモルト粕を用いたNEW クラフトビールペーパーFSなど、気になる紙がいっぱいです。

見本帳は下記のサイトで購入できますので、気になる方はぜひゲットしてみてください~!(ちなみに私もここで買いました)


そして紙好きに!矢田さんのこれから

入社される前はそこまで紙に興味はなかった矢田さん。
最後に、約4年経って心境が変化したのかお聞きしました。

矢田さん:紙は面白いです!面白くて、もう大好きです。これからも世の中にない、今までなかったような紙を開発していきたいですね。

kome-kamiはお米を混ぜただけでなく、化学薬品の代わりとしても使用しているという点で、混抄紙を超えた混抄紙といえるのではないでしょうか。なおかつ、CO2削減&食品ロスにも貢献できて、今までにない紙の新しい可能性を開いた商品だと思います。

矢田さん:仕事をしてて、結果的に誰かのためになっていたら、いいですよね。

私も自分の仕事が誰かのためになっていたらいいなあと思ってはいるんですが……実現できているかはちょっと自信がないというのが本音です。
でも、どこか心の片隅であっても、ずっと置いておきたい思いですよね。

矢田さん、お忙しいところ、本当にありがとうございました!



紙は発明されてからかなりの時間が経っている分、成熟産業になっている面は否めません。紙の需要は減っていますし、先細りなのかな…と思うこともあります。
ですが、kome-kamiはまだまだ紙は面白くて、可能性が広がっているんだと教えてくれました。

世の中はSDGsの掛け声で溢れているけれど、実際に何をしたら良いかわからない……という方も、kome-kamiなら使うだけで食品ロスに貢献できますよ。
興味が出た!という方は、ぜひ下記のリンク先もチェックくださいませ!

株式会社ペーパル

フードロスペーパー


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