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通勤日記ーカスタネットおんなー

 真夏が暑くなった。平成から令和の世になり、より実感する。ぼくが子どものころは、家にエアコンなどなかった。学校の教室だって、だるまストーブはあっても、クーラーなどなかった。それでも我慢できたのだから、現代より過ごしやすかったのだろう。

 二酸化炭素による地球温暖化、エアコンから排出される熱風、舗装ほそうされた道路に蓄積される熱など、現代の酷暑はさまざまな要因が複合的に絡み合った結果だ。どこかで歯止めをかけないと、ひどい世の中になりそうで怖い。

 酷暑が原因かどうかは判らないが、女性の着るものの露出が、年々はげしくなっているように思う。それはそれでいいと思うのだが、ときどき真夏のビーチと見まがうような服装をみると、ちょっと嬉しくもあり、ちょっと恥ずかしくもあり、複雑な感情におそわれる。

 そんな露出過多かたの女性が闊歩かっぽしだしたころのはなしである。

     ☆     ☆     ☆

 ここ何年か、夏になると駅の階段でパチパチと音が響くようになった。最初は何事かと思い音源を追い求めたものだが、そのうち音の主がうら若き女性だとわかり驚いた。それは、踵が固定されないサンダル(ミュールというらしい)が、階段のタイルをたたく音だったのだ。まるでカスタネットをたたくように、規則正しくパチパチと音が響いてくる。

ミュール

 少し前までは、誰はばかることなく音をたてたりするのは、中年世代か成長過程の子供たちの領分りょうぶんだった。まさかこんな若い女性にまで蔓延まんえんしているとは……。

 若い人たちが中年化、もしくは若年化しているのだろうか? 電車の中でノドチンコが見えるほど大口を開けて笑う人や、携帯電話を必要以上に大きな声で話している人など、書けば枚挙まいきょにいとまがない。おやじギャルなる言葉もあるそうで、日本人も多様化したものだと思う。(おやじギャルはすでに死語らしい)

 そういえば、最近の女子大生の一部には、高校時代の制服を着ている人がいるそうだ。顔面を黒く焼いて目の上を白く塗り、奥村チヨのような付けまつ毛をたっぷり張り付け、白い唇、必要以上に短くしたスカート、そして極めつけがあのルーズソックス。(すでに絶滅か?)大学生になっても高校生の初々しさを失わない気持ちは良しとしても、やはり成長過程の世代には、常に未来に向かって進む気持を失って欲しくない。

 そんなことを思いながらこのパチパチ音を聞いていると、実にいろいろなバリエーションが存在することに気づかされる。階段を下りるときの足の運びに、こんなにも個性があるものかと新鮮な感動がある。

 左右とも規則正しく音を立てる人、おそらく身体からだのバランスがいい人なんだろう。スキップを踏むようにリズムよく音をたてている人、おそらく左右のバランスが悪いか、リズム感のいい人なんだろう。きっとお風呂にはいるときには、無意識のうちに必ずどちらかの足から入るにだろうなぁ。そのほか、まるで老人のような歩調でしか降りられない人。見ると、かかとが高すぎてうまく歩けない人であったりする。だいたいは手すりにつかまっている。

 それにしても、このサンダルは誰がデザインしたのだろ? かかとを固定せずにタップダンス用シューズのように固いソールを付ければ、あのようなパチパチ音が響くことは容易に想像できるだろう。子供がよく履いているぴよぴよサンダルなら可愛いが、パチパチ響く破裂音かれつおんは騒音以外のナニモノでもない。

 膝や腰への負担を考えれば、もう少し柔らかいソールを付けた方が良いと思うのだが。最近の若者に、腰痛や神経痛が増えているという話しもあることだし。デザイナーの意図はいったい何なんだろう? ぼくもコンピューター業界に籍を置く技術者の端くれとして、いちどコンセプトをいてみたいと思う。

 それにしても、流石さすがに冬場にそのようなサンダルを履く人はいないようで、春先までは駅の階段も平穏な日々で迎えてくれそうである。

 今度の夏、カスタネット女は出没するだろうか? 結構うるさいと思うのだが、聞こえないとちょっと寂しいような気もする。

・・・つづく

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