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通勤日記ー危うくセーフー
和光市駅で始発電車に乗り込む際、子供連れのオバサンに尻をはじかれ、結局座れなかったことは前に書いた。それ以来、朝のオバサンの存在には気をつけていたのだが、再び同じような危機に遭い、危うく二の舞になるところだった。
といっても、ぼくをはじきだそうとしたオバサンも、ぼくと同じ被害者の一人であったから、話は少々複雑である。
☆ ☆ ☆
その日は、始発電車を待つ列の前から六番目に並んでいた。だいたい六番目当たりが座席確保のボーダーラインで、前で乗り込む人がもたつかない限り、必ず座れる位置である。自分と前の人の間隔をあけて並んでいる人に限って、格好をつけてのんびり乗り込むことに最近気づいた。
この日も、いつものように無人の電車がホームに滑り込んできた。ドアが開くと一瞬に緊張感が広がり、足音だけがホームに響きわたる。ぼくも流れに乗って電車に乗り込んだ。ドアを入り左側手前のシートを目指し、前に並んでいた人が次々と座ってゆくのを横目に、素早く腰を下ろそうとした。
と、その瞬間、まさにその瞬間、あのときの悪夢がよみがえった。
ぼくが、乗り込んだドア側から数えて三人目の席に腰掛けようとしたとき、左側のドアから乗り込んできたオバサンが、ぼくを押し出すような動きをしたのである。けれど、それはよく見ると、オバサンの後ろにサラリーマン風のオジサンがいて、オバサンを突き出して自分の座る場所を確保しようとした結果であった。
結局オバサンは、ぼくのささやかな抵抗にあい、押したオジサンとぼくの間にある小さな隙間に、そんなに小さくないお尻を、はめ込む羽目になった。(失礼!)
オバサンのお尻がぼくの左腿に圧力をかけ、どうにも窮屈なのだが、オバサンを突き出したオジサンは、悪びれることなく実に清々しい表情で新聞を読み始めた。まったく自分勝手で人の迷惑を顧みないオジサンは、自分の行為を正当化することもせず、至極当然といった雰囲気であった。こんな状態でしばらく我慢するのかと思ったら、眠気も覚めてしまった。
そして、電車のドアが閉まりかけたとき、オバサンは意を決したように立ちあがり、遠くの吊革に移動していった。
そうか、ぼくよりもオバサンの方が、よほど苦しかったのだろう。表情をかいま見ることはできなかったが、悔しかったに違いない。そして、自分の窮屈だけに不満をもったことに、恥ずかしさを覚えた。
それにしても諸悪の根元は、オバサンをはじき出したオジサンなのだ。以前もこの日記に書いたが、分別盛りといわれる中年男性に、反社会的な行為や自分勝手な振る舞いが多いことを、再びここで言及せざるを得ない。
こんなオジサンには、「最近の若い者は」と発言する権利を剥奪すべきだと思う。
・・・つづく