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通勤日記ー突然めまいがー

 人間が人間らしく生きる基本は、心身の健康ではないだろうか。健康であれば長生きできる。長生きできれば、好きな酒は飲める、好きな旅行にも行ける、好きなスキーもできる、好きな女性ともいいことできる。まさに、いいことずくめである。

 だが、人間、避けて通れないのが老いだ。こればっかりは、遅らすことはできても、逆回転させることはできない。よく肌を若返らせるなどと言うが、それは老いを物理的にカバーしているのであって、根本的な解決ではない。ペリー・ローダンのように、永遠の命を与えられるSFの世界でしか、老いの時計を止めたり逆回転させることはできないのだ。

 ペリー・ローダンで思いだしたので、ちょっと寄り道を。

 ご存じの方も多いと思うが、「宇宙英雄ローダンシリーズ」と銘打ったSF長編小説がある。原作はドイツで、複数の作家がリレー形式で執筆し、日本ではドイツ版の二話を一冊にした単行本が、すでに700巻を超え発売されている。

 もうずいぶん前だが、この「ローダンシリーズ」が大好きな会社の先輩と酒を呑んだあと、田町駅前の本屋に立ち寄った。そして、その先輩はいきなりこう言った。

「志方、これ読め!」

 そしてぼくは、「ローダンシリーズ」の一巻から百巻までを、大人買いすることになった。店のおやじも驚いた様子で、五冊分を割り引いてくれたから、まあメリットはあったのだが。

 その後、翻訳者の松谷健二氏が亡くなってしまい、その時点で読書を中断してしまったが、機会があったらまた読んでみたいと思う。第一巻で、リレーだか継電器が鳴るという表現があり、時代を感じさせるSF小説だが、飽きさせないエンターテインメントの宝庫だ。

 はなしは逸れたが、ペリー・ローダンのような不死は無理にしても、健康であれば人生を長く生きることができる。だから、人間健康が一番である。
 このはなしは、そんな健康について考えたエピソードである。

     ☆     ☆     ☆

 最近、妻に目眩めまいの症状が頻発し、近くのクリニックへ連れて行ったら、メニエール病の疑いありと診断され驚いた。メニエール病とは、内耳のリンパ液の圧力が高まったり、バランスが崩れることでおこる、目眩や頭痛を伴う病気のことである。その後埼玉医大の専門医に診てもらたところ、幸いにもメニエール病の疑いは否定されたが、しばらくは車の運転もままならない状態が続いた。

 ぼくは今までの人生で、入院を伴うような大病をしたことがなく、比較的健康である。(註:この文章を執筆時)だから、目眩のような症状もさほど多く経験していない。会社の健康診断では、毎度赤血球の値が基準値より少なく、軽い貧血と診断を受けているが、普段の生活で貧血を意識することはない。

 とことが、ある日の朝の出来事。その日は朝の会議に間に合わせるために、始発の列に加わらず、入ってきた有楽町ゆうらくちょう線の電車に飛び乗った。真夏の暑い一日の始まりであった。つり革につかまり暫しぼーっとしていたら、突然全身に暑さと寒さを同時に感じ、冷や汗が吹き出してきた。要町かなめちょうあたりで始まった変調は、護国寺ごこくじあたりで更にひどくなり、頭もくらくらして、立っているのもままならなくなってきた。

 そして電車が江戸川橋えどがわばしに近づいたころ、突然目の前が真っ暗になり、あわてて手すりにつかまった。まだ意識はあり、なんとかその位置で立ちすくむことができたため、電車が江戸川橋に着いたところでホームにおり、ベンチで休んだ。幸い五分ほどで回復し、そのまま通勤を続け、会社にたどり着くことができたが、朝の会議には遅刻し、何も発言しないまま終わってしまった。

 よく目の前が真っ暗になるというけれども、あれは状況をデフォルメした表現だと思っていた。だから、本当に真っ暗になることがあるという、いい経験をしたと思う。そういえば、頭に衝撃が加わると星が飛ぶというけれど、これも本当である。ぼくは子供のころ神社の境内で転び、キラキラ輝く星をなん度か見た。

 さらに言うと、よくテレビドラマなどで、夢でうなされガバッと跳ね起きるシーンも、デフォルメされたものだと思っていたが、今から五、六年前、実際に経験した。家の近くを歩いていたら、突然知らない男に追いかけられた。一生懸命走るのだが、男の足は速く、あっという間に追いつかれた。そして突然包丁を振り上げ、ぼくの頭上に振り落とした。そしてぼくは飛び起きた。全身汗びっしょりだった。

 とにかく健康管理に関しては、この目眩を経験してから、かなり気にかけるようになった。健康で病気をあまりを経験していない人は、比較的健康維持に鈍感であるという。自分の身体を過信しすぎるきらいがあるということらしい。ぼくも、そんなに過信はしていないが、なんとなく病気にならないという、漠然とした気持ちがあったように思う。幸いその後目眩は起きていない。

 あっ、そう言えば、ぼくは一度だけ入院を経験したことがある。今から十年以上前のできごとだが、会社の食堂で食中毒が発生し、運悪く原因メニューの「かにピラフ」を食べてしまったのだ。食べたとき、なんだか石けんを噛んだような変な味だったことを覚えているが、まさか食中毒の原因だとは思わないので、そのまま飲み込んでしまった。

 あれは本当に辛かった。午後三時くらいに腹痛が始まり、夕方には耐えられないほどの激痛に変わった。腹の中に手を入れて、腸を直接ねじられたような感覚だった。直ぐに病院に行ったので事なきを得たが、点滴の液がなくなったら知らせるということも知らず、血液が逆流しチューブが真っ赤に染まっていたことを覚えている。

 また、明け方医者と看護師が訪れ、何の説明もせずにパンツを脱がせ、お尻の穴をこじってサンプルを採取していったことも、今ではいい想い出だけれど恥ずかしかった。一言断って欲しかったが、そんな状況ではなかったのかも知れない。

 話はあらぬ方向へ行ってしまったが、とにかく健康管理には注意しようというのが結論である。


・・・おわり

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