13.優(まさる)
山田優は楽しむ。
「うわっ!やられた!」、「よっしゃ!」、
明るい声が練習場に響く。
優だけは点数を取っても取られても一喜一憂で、子供みたいにいつも無邪気だ。
だからみんなもつられて自然と練習中の口数が多くなる。
きつい練習でも楽しくなってきて、自然と活気がつく。
そんな優のことが、エペジーーンは好きだ。
そしてもし、仮にフェンシングの神さまがいるとするなら、やっぱり優の事を好きだろうと思う。
楽しそうにフェンシングをする姿は、誰もが好きになると思うから。
ただ、優の凄いところはムードメーカーというだけでは無いというところ。
プレーを見てて感じるのは、柔軟な頭から考えられる天才的なひらめきだ。
普通はフェンシングをやる時、どうやって自分のプレースタイルに相手をハメるか考える。
優の場合、最初は相手のペースに合わせる形でプレーをし、そのうち相手の弱点を見つけ、自分のプレーの組み立てを瞬時にひらめく事ができる。
だから、最初は相手にリードされていても一瞬で挽回できる術を思いつくことが出来るのだ。
プレーを見てて優の発想にはいつも驚かされる。
時々優は「あ~~しんどい…」と愚痴をこぼす時がある。
そういう時の優は驚くほど弱い 笑
優の強みである「楽しむ」事が出来てなくて、何もひらめかないからだろう。
その時は自らコーチに言い練習を1日ほど休む。
エペジーーンもそれは良しとしている。
いつも優に助けられているからだ。
そして、また戻ってきて、笑顔でフェンシングをする。
フェンシングが好きだからこそ、中途半端な気持ちでは剣を握らないのだろう。
しかし、試合の時には流石に優も集中モード。
練習のような一喜一憂はしない。
だけど、自分の納得のいく一本が決まるとする癖がある。
剣の曲がりを手で直しながら必ず2、3回頷く。
憶測だがフェンシングの神様と会話をしているのだろう。
「今のよかった?」、「もうちょっと距離近くじゃない?」、「うん、うん、そうだよね~」
といった感じなんだろう。
そういう時の優は、神がかって強い。
今回の東京オリンピック、
僕が見る限り画面越しにはその癖はあまり見れなかったように感じた。
個人戦、団体戦全部で1、2回だったように思える。
今回のオリンピックは、優にとって普段の大会とは少し違ったものだったのかもしれない。
だけどその中でも個人ではベスト8に入り団体では金メダルの活躍をした。
充分な成績だと思う。
ただ、もしあの時神さまが優の隣りに降りて来てたらと考えると、
個人でも金メダルはあったと思ってる。
今度のパリでは神がかったプレーに注目して見てほしい。
エペジーーンのエース優を。