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「香りカツオに味ソウダ」うま味多き土佐清水。たけまさ商店の宗田節|高知県|生産者訪問#10

高知市内から2時間半ほど西南に車を走らせ、「日本最後の清流」で名高い四万十川を超えた先にある高知県土佐清水市。四国最南端のこの地では、うどんやそばのダシに欠かせない宗田節が昔から作られている。

鰹節?宗田節?

鰹節とは鰹の身をボイルして水分を減らし、燻製にしたもの。使用する「鰹」はスズキ目サバ科カツオ属に分類され、実は5種類ある。大きさの順にカツオ、スマ、ハガツオ、ヒラソウダ、マルソウダ。

下から2種類のカツオが「ソウダガツオ」と呼ばれる

ヒラソウダとマルソウダのことを総称で「ソウダガツオ」と呼び、この2種類の魚を使って作られる節が「宗田節」と呼ばれている。ソウダガツオはサバに近い大きさで700g程度にしかならないが、鰹節に使用されている鰹は大きいもので8kgほどになる。

 「全国的にはヒラソウダとマルソウダのどちらかを使ったものを宗田節と呼んでいますが、土佐清水の宗田節はすべてマルソウダです。マルソウダのことをメジカ(目近)と呼んでいて、土佐清水でよく獲れる魚です。鰹は頭と骨と三枚におろしてから湯がきますが、マルソウダは魚体が小さいのでこのまま並べて大釜で湯がいていきます。内臓もそのままで、おろしてから茹でるわけではないので、うま味が閉じこもるんですよ。」

そうお話いただいたのは宗田節製造で創業100年以上の株式会社たけまさ商店 島谷真矢(しんや)さん。奥さんの実家から送られてくる宗田節の味に惚れ込み、移住して5年になる。

案内してくださったのは株式会社たけまさ商店 島谷真矢さん

「妻がパパッと作ってくれた麺のダシ汁がおいしくて感動したんです。妻はこの味で育っているから当たり前だったんだけれど、僕にはとても衝撃的でした。こんなに簡単にこんなにおいしいダシ汁ができるのか?!と。それまでは宗田節と鰹節の違いも全く知りませんでした。こんなにおいしいのに、一般家庭ではあまりメジャーではない宗田節をもっと知ってほしいと思い、移住してきました。」

節を化粧する

晴天に並ぶ宗田節。カビ付と天日干しを繰り返す。

土佐清水市は宗田節の生産量全国No.1。70~80%が土佐清水市で加工された宗田節である。ソウダガツオは鮮度が落ちやすくて生食に向かない魚だが、宗田節にすることで独特の味と香りを生み出す最高の品に生まれ変わる。

「これがカビつけ前の節です。ここから良い節を選別してカビをつけていきます。良い節とは脂が少ない物。食べる分には脂が多い方がおいしいとされますが、ダシのためには脂が少ない方がいいんです。脂があると酸化しやすいのであまり良いダシになりません。

魚を丸ごと加工する宗田節は節にした時に骨の痕がついているのが特徴的。

素人でスタートして3年で、良い節か悪い節かの判別はつくようになりましたが、『このくらいならOK』『これはちょっとダメかな』という許容範囲のアソビ部分が難しいですね。選別していてもよく注意されてしまいます(笑)。

土佐清水の宗田節は、カビをつけるのではなく、温度と湿度を調整してカビを自然発生させます。カビを生やすことと天日干しを最低3回は繰り返します。職人の間では、節を仕上げていくことを『化粧する』って言うんですよ。」

「まだまだ目利きが難しい」と島谷さん

カビをつける前の裸節は濃厚なうま味が特長で西日本で好まれ、カビをつけた枯節はあっさりと上品な味わいが関東で好まれるという。「香りカツオに味ソウダ(香りが良いのはカツオ、味が良いのはソウダガツオ)」という言葉がある程、昔から宗田節は和食を支えてきた。

宗田節ができるまで

参照:たけまさ商店

自分で選んだ宗田節を削ってうま味醤油ボトルづくり!

土佐清水市では伝統の曳き縄漁で一尾一尾丁寧に釣り上げ、十分に冷却したまま市場に水揚げをしている。昔は鰹節づくりの傍らで宗田節をつくっていたが、昭和30年ころから土佐清水周辺で鰹が獲れなくなったり、漁業形態が遠洋漁業にシフトしていったりしたことがあり、宗田節をメインで作るようになった。

宗田節は東京に出荷され、問屋を通して蕎麦屋や料亭に卸されているという。料理人たちには人気の宗田節だが、一般家庭では鰹節ほど浸透していない。たけまさ商店では、宗田節の魅力を多くの方に知っていただくために工場見学を受け入れている。

2階建てほどの高さから薪を投入!
タイミングが合えば、節を薪で燻している様子も見学できる。

見学の最後には、宗田節を自分で選び、小刀で成形して『うま味醤油オリジナルボトル』を作る体験も。ボトルに醤油を注ぐだけで、宗田節の風味あるお醤油ができる。

いつもの醤油がうま味多き出汁醤油に!

宗田節の工場の近くには〈だしの郷たけまさ商店〉があり、買い物も楽しめる。周辺には、日本人初の国際人ともいわれるジョン万次郎資料館や巨大なジオラマに紛れ込んだかのような絶景の龍宮神社、黒潮本流が直接ぶつかる全国でも唯一の場所である足摺岬など、観光スポットもたくさん。土佐の海を見ながらのドライブを楽しみながら、うまみある四国最南端の旅はいかが?



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