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喪失の秋

少し前にドラえもんの四次元ポケットを模した形のポーチを買った。幼き頃のセワシ君と、まだ耳を残していた頃のドラえもんが仲睦まじく遊んでる絵が描かれている、私が持つには微笑ましさが過ぎるポーチである。

私はそのポーチに常備薬を入れていた。かゆみ止めや目薬、ワセリンにチョコラBB。そして無人島に何かひとつ持っていくとしたら?と聞かれた時に即答するであろう頭痛薬。2シート。

何か不調を感じた時、私はこのポーチを「助けてドラえもん」と言って出していた。そうすると、楽しい気持ちになった。自分の髪の毛にかぶれて耳たぶがかゆくなった時も、目の奥から生まれ瞬く間に頭蓋骨を支配する痛みを感じた時も、「助けてドラえもん」と言える理由になる。ポーチを開ける度、私はなんていい買い物をしたのだろう、なんて正しい使い方をしてるのだろう、と思って機嫌が良くなった。その間中、体のどこかが軋んでいたとしても。

ある日、カバンの中身を移し替えている時、そのポーチが見当たらないことに気がついた。昨日使っていたカバンに入ってないのだから、既に移し替えたのだろうか、と思った。私は外出の準備を一度に行わず、始めては違うことが気になり、始めては寝転がり、始めては宙を見つめ、もう既に行ったことを忘れて再度行うなどの愚かな行為をよくやるので、珍しいことではなかった。なので既に入ってるのだろう、と思ってそのまま外出した。でも、カバンにそのポーチはなかった。

家に帰って探しても、どこにもそのポーチはなかった。同じ場所を何度も探した。部屋にあるものが全て邪魔に見えた。何もかもが私からそのポーチを隠しているように見えて、全部捨ててしまいたい気持ちになった。

ひとまず頭痛薬とワセリンだけむき出しのままカバンに入れて、数日を過ごした。もしかしたら、と思える場所で探してみたりもした。駅のトイレや、週末だけ手伝いに行くスタジオ。しかし、どこを探しても見つけられなかった。

カバンの中でむき出しの頭痛薬が手に触れる度、心がガランとしているのを感じた。私はタイムマシンに乗りたいなんて願ってない。空を自由に飛びたいとも思ってない。ただ、ほんの少し日常が楽しくなれば良いだけなのに。そもそも「助けて」と言った所で、全て私の金で買ったものなのに。どうしてそれが、こんな形で失われるのだろう。

頭が痛い。頭が痛いよ。最近は喉も痛むんだ。もし戻ってきてくれたら、今度はのど飴も持っててくれないかな。そう言えば預けたチョコラBB、まだ1錠も飲んでなかったんだぜ。

むき出しの頭痛薬を取り出す。効果は変わらないはずなのに、治らない気がしてしまう。秋。首から冷える風。

※繁忙期中の私は部屋も心もとっちらかってます。

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