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ポートレートを撮る時に考えていたことの一例

私とお客さんが納得したらそれでええわい、と思うタチなのであまり写真の解説はしてこなかったのだが、どのように撮影が進むかを話してみるのもたまにはいいかな、と思ったので書いてみる。今回は春画撮影で撮らせてもらったお客さんの一例。

春画撮影とは、私が企画した撮影会のテーマである。「カメラマンや鑑賞者の為ではなく、被写体の為に性を撮る」という内容だった。撮ろうと思った時の話はこちらから→「苦手な写真を撮った話」

まずは申し込んでくれたお客さんに何かイメージがあるかをメールで聞いてみる。
・何が着たいか
・使いたい小物はあるか
・どこまで脱ぎたいなど希望はあるか
とりあえずこの辺を聞く。「イメージが皆無でも大丈夫、提案する」ということも伝えておく。

今回のお客さんからはこういう希望がきた。
・サトウが嫌がらない範囲で脱ぎたい
・スリップのようなものが着たい
・素敵な下着やバーレスク、ストリップが女の体に対するねじ曲がった価値観を和らげてくれたので、それに敬意を示した写真を撮りたい

補足として、「女の体に生まれついたことや、受け身の性に生まれついてしまったことを肯定してあげたい」という希望もあった。

これを受けて、私はこう提案した。(送ったメッセージのまま掲載)

『素敵な下着、バーレスクやストリップのダンサーさんについて考えたのですが、「脱ぐことも装うことになり得る」のかなぁ、と思って。「脱ぐことにより、自分の思う美しさを纏う」みたいな。それを表現できないかと思いました。

なので、服を脱ぐところから撮り始めて、スリップになった状態で化粧をしている場面を撮るのはどうかなぁ、と思ったのですが、いかがでしょう。

ぱっと見は、何故か脱ぎ始めてから下着姿で化粧をするという順番がめちゃくちゃな写真です。でも「脱ぐことも美しさを纏うこと」という感覚を持ってる人には伝わるかもしれません。あくまで「自分の美しさを求めてるだけの行為」を記録しているだけ、という感じにできないかと。

バーレスクやストリップのダンサーさんに憧れる女性、という感じにも見えるのではないでしょうか』

この提案にOKが出たら、具体的な服や小物の話をしていく。

まず脱ぐ服をどうするかを決める。「好きな服を脱ぐ」なら「色んな自分を楽しんでる自分」が表現できるし、「好きじゃない服を脱ぐ」なら「解放される自分」を表現できる、と説明して、お客さんの希望を聞く。1週間程待つと、服の写真とこんな答えがきた。

「幼く見えて、何も知らないように見えることを重視していた頃に着ていた服を脱ぎたい。受動的に見えるその服を脱ぎ去ることにより、能動的な大人の女性への変化を表現したい」

非常にあっぱれな答えである(全てのお客さんがこれくらい解像度の高い答えを持っている必要はないので安心してほしい)。このやり取りによって、よりコンセプトが具体的になった。後はもう少し細かい点を詰めていく。

「化粧以外にも装うことができますよね、勉強も知的武装ですし」
「じゃあ私の場合は本とヒールです」
「それを背景に写し込ませましょうか」

「口紅塗る以外に足にネイルかアイシャドウ塗るシーンのどちらかを撮りたい」
「余程凝った塗り方しなきゃどっちも撮れますよ」

「タイツ履いたら抑圧を表現できますかね」
「脱ぐ場面撮れますし、いいですね」
「ネイル先に何本か塗っときますか?」
「タイツ脱ぐ場面撮る時に写さないようにするのがしんどそうなんで、現場で塗る方向で」

ざっくりこんな感じのやり取りを繰り返し、お互い文面より遥かにソワソワしたテンションで当日を迎える。後は立ち位置や体の向きを指示しながら、打ち合わせ通りに脱いでいく場面を撮っていく。

まずはこんな感じから。

うわぁぁぁ、と言いながら撮った写真。

ご希望のアイシャドウを塗ってる場面。

ネイルを塗ってる場面。ちょいちょい本やヒールを写し込ませる。

打ち合わせ以外にも、撮りたいと思ったものはその場で提案していく。(結果そういうのが一番好きな写真になる現象に名前をつけたい)

撮影後は1〜2週間程度の時間をもらい、その間に明るさや色味を調整し、仕上げた写真をデータで送る。その際、「ここまでやってクレームなら仕方ないよ」と先に自分に言い聞かせておく。

このお客さんは無事喜んでくれて、以下のような感想を送ってくれた。

「男を待つロマンポルノにも見えるし、働く女のルポルタージュにも見えるし、バーレスクに憧れるひとりの少女の冒険譚にも見えます」

「あー今日で死にたい」と思えたら、無事撮影終わり。こんな感じ。

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