無名の小説
ー前置きー
一昨年くらい、やたらと短編小説を書いていた。
現実で自分に「大丈夫」と言ってあげられなくて、かといって共感してもらえるとも思えなくて人に話せず、1人でコソコソと「自分が大丈夫な世界を文字で創り、その世界の中だけでも自分をへっちゃらにする」ということをやっていた。
その中のひとつを、今でもたまに読み返しているのだが、隠しとく必要もないのでは?と思ったのでアップしてみる。
(とは言え多少恥ずかしいので有料です、問題のある方は静かに回れ右で)
以下から小説部分になります↓
撮影がない日のはずだった。何度寝か分からない睡眠から起き、お湯を沸かしているとチャイムが鳴った。モニターには、若い女性が2人並んで映っていた。
撮影予約の取り漏れの可能性が頭をよぎる。無視する訳にはいかなかった。仕方なく、起きたままの格好にカーディガンを羽織り、玄関を開けた。
「…急にすみません」
右側に立っていた女性が明らかに私の服を見て、察したように頭を下げた。予約の取り漏れではないらしいことが分かり、とりあえず安心するが、少々反応に迷っていると左側に立つ女性と目が合った。睨むような目ではなかったが、何かを確かめるような目でじっと見られている。そのことにも反応に迷っていると、
「お休みのところ悪いんですけど、写真、撮ってもらえますか?」
と、右側に立つ女性が言った。
完全予約制であることを伝えて追い返すか悩んだが、なんとなく大人しく帰ってくれなさそうな気配を感じ、とりあえず打ち合わせをすることを提案した。冬の玄関は、パジャマで応対するには寒すぎて、私は2人を中に案内した。
「素敵なスタジオですね」
右側の女性が言った。
2人は先程と同じ並び順でソファに座っていた。2人を案内した部屋には、中途半端にぶら下がった背景紙と、片付けていないままのストロボしかない。中古の一軒家のリビングを少しいじっただけのスタジオ。これだけ質素なスタジオに、若い女性が興味を持つことはまずない。ましてや、素敵と言われるなんて自分自身違和感がある。予約制であることも知らなかったようだし、HPも見てないだろう。
どうしてうちに来たのか聞こうかとした時、左の女性が口を開いた。
「私達、どんな関係に見えますか」
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