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‪おっさんずラブ‬ in the skyと、古墳群に射す光。

先日、用があって初めて大阪に行き、新幹線に乗るまで数時間だけ空いたので、あべのハルカスに上ってみました。高い高い展望室からずっと遠くまですべて見渡せる美しい景色にうっとり。案内を読みながらくるくる歩いて、遠くに古墳群が見えることに気がつきました。
「あー、ここに成瀬くん連れてきて見せてあげたいな、喜ぶだろうな…あ、でもこういうのはコクピットから散々見てるんだろうなあ」
と、しばらく光が射す緑の点々を見ながらぼんやりしました。で、少しして、あれ?ってなりました。今私、成瀬くんを、ほんとにいる人として、考えてなかった?

ドラマを8話見る間に、私の中では、成瀬くんという人が、本当に、身近に、実際にいる人のようになっていた。
喜ぶだろうな、と古墳を見たら思い出すくらいに。これを教えた時の笑った顔が見たいな、と思うくらいに。そんなに、好きに、なっていた。
いつの間にそんなことに?と大阪を見下ろしながら少し慌てました。だって、ドラマの中の人じゃん。架空の。こんなのおかしいよ。

でもそれ、たぶん、春田のせいだ。

私が成瀬くんを好きになったというよりも、私が春田の中に入りこんでしまったみたいな…春田というフィルターを通して、成瀬くんへの恋の一部始終を体験しちゃった、そんな気がします。

…一部始終って悲しい言葉ですね。ほんとに始まりから終わりまで、でしたもんね、成瀬くんへの恋の。

とんでもないキスから始まって、ほっとけなくなって、雨の中震える体を抱きしめて、シノさんと眠る姿にざわついて、告白して、拒絶されて、ひどいキスして、あきらめてシノさんとの恋を応援して、あきらめきれなくて、最後に決定的に振られて終わり。

全部、春田じゃなくて、自分が経験してるみたいだった。

じっとこちらを見るときの上目遣い。厚めにおろした前髪の向こうの、キラキラ光る大きな瞳。生意気なことしか言わないぷっくりしたくちびる。自分ではなくシノさんを見つめる横顔の、長い睫毛。こぼれる大粒の涙。
これらはみんな、春田が見ていた成瀬くん。でも、きっと私も、同じ気持ちで彼を見ていた。なんて美しいんだろう、なんてかわいいんだろう、どうして自分を好きになってくれないんだろう。

ドラマ好きだから、たくさんの恋愛ドラマを見てきたつもりですが、こんな風に登場人物とシンクロして、彼が悲しむ時に、自分も同じくらい悲しいと感じたことは、初めてです。

最終回の橋の上。この恋は叶わないのだ、今から自分は決定的な言葉を告げられるのだ、と悟った時の、すっと薄く目に浮かぶ涙。彼がギリギリまで流さない涙の代わりに、テレビのこちらの私は愛されなかった悲しみでしゃくりあげて泣きました。
あれは、彼だけの失恋ではなくて、私の失恋でもあった。おかしな話なんですけど。たかがテレビドラマなんですけど。私には全然関係ないんですけど。でもあの時感じた胸の痛みは、やっぱり、本物なんですよ。あの時、私は春田と一緒に、成瀬くんに振られたとしか思えない。
ドラマを見た、というより「体験した」に近い。

どうしてこうなったのか、は、やっぱり、役者さんの力だと思います。

春田の見せる恋する表情があまりに本物すぎて、演技とは思えなくて、ドラマとは思えなくて、まるでドキュメンタリーを見ているような。自分が中に入って体験しているような。その感情が、今この手の中にそのままあるような。そんなものをこちらに差し出したのは、やはり、座長、田中圭さんという俳優のパワーによるものだと思います。そしてそのパワーに引き出された他の俳優たちのパワーと、それを押し上げるスタッフのパワー。その相乗効果。
千葉雄大さんのかわいさはよくわかってるつもりだったけど、このドラマでの、後半どんどんかわいさが増していく様は、おそろしいくらいだった。
成瀬くん、こんなの絶対好きになっちゃうよ、という説得力、それを形にした千葉雄大さんとスタッフ、すごい。彼が恋するシノさんの、それは好きになるよね、というやわらかい優しさ(と残念さ)を思いきり見せてくれた戸次重幸さん、すごい。
どの恋も、本物だった。あのせつなさは、全部本物だった。だから私も、今もまだ成瀬くんに失恋した気分から抜け出せないでいます。でも。いい片思いだったなあ。好きになって、よかった。一生もののギフトだ。ほんとに恋をしたわけじゃないけど。でも恋でした。

長々と、すみません。

大阪の街を見下ろし、高い空を見上げながら、世界のどこかにきっと存在している、ドラマではなく、実際に生きている、私の中ではそうなっている、春田と、武蔵と、シノさんと、成瀬くんのしあわせを祈りました。
みんな、しあわせであれ。

これだけ書いてもまだ感想を書ききれてない気がする…残りは年越し。よいお年を!

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さとひ(渡辺裕子)
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