FORZA!Cucina italiana ! ==存在感抜群!生ハムの王様 ==
3年前。
我が家から歩いて5分もしない場所に
イタリアンの店がオープンしました。
はたして、こんな場所に開店する
イタリアンの店ってどうなの???
と正直、期待半分、不安半分でした。
ところがところが!
いざ行ってみると店内にピッツァを焼く
石窯があり、良い感じです。
ピッツァは本番を思い出させる焼き加減。
料理はもちろん、イタリア産ビールや
食後酒もあって、本物のイタリアの味も
楽しめます。
やっぱりイタリアンは美味いよなー!!
ということで、
FORZA!Cucina italiana !
「新型コロナウイルスなんかで
絶対になくなって欲しくない!」
という気持ちを込めて、
イタリアの食材、飲み物、料理などを
これからは紹介していきたいと思います。
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今では、イタリアンのお店は、都内に
限らず、ちょっとした駅前や商店街、
住宅街でも見かけるようになっています。
しかし、私がイタリアを取材していた頃は、
まだオシャレな街にしかない、ちょっと
敷居の高い場所でした。
イタリア産のワインだってチーズだって
ハムやソーセージだって、そう簡単に
手に入れられる時代ではなかったのです。
こんな時代ですから、いざ取材に行くと
▶「スパゲティ・ナポリタン」って
イタリアのナポリには無いんだ。
▶「スパゲティ・ミートソース」って
本場では「ボロネーゼ」っていうんだ。
▶ そもそも、「スパゲティ」ではなく
「パスタ」なんだ。
▶「ピザ」ってシェアして食べるんじゃなく
ひとりで1枚食べちゃうんだ。
などと、小さなことにも感心の嵐。
そんな私がイタリアに行き、現地で食べた
第一食目。
それが
「プロシュット・エ・メローネ」
いわゆる「生ハムメロン」でした。
長いフライトと車移動で、ローマ郊外にある
ホテルのレストランに着いたのが夏の夜の
すでに10時をまわった頃。
旅の疲れもあり食欲が余りなかった私に
現地のコーディネーターが勧めてくれた
のが「生ハムメロン」だったのです。
お皿の上に乗った4切れ程のメロン。
そして、そのメロンが隠れるくらい贅沢に
生ハムが乗った「生ハムメロン」
「どうしてこの組み合わせ???
両方とも美味しんだから、
別々に食べても良さそうなのに・・・」
これが私の第一印象。
「サッパリしていて食欲がない時でも大丈夫。
私も、夏によく食べるんですよ」という
コーディネーターの言葉のままに口に運ぶと
おおーっ!!美味い!!!
塩味の効いた生ハムと熟したメロンは
相性抜群!
メロンに生ハムを乗せたまま口に入れると、
噛むほどに、乾いた生ハムに熟したメロンの
みずみずしさが伝わります。
その上、口の中にじんわりと広がっていく
メロンの甘さ・・・
喉が渇く夏の夜には、ビールに、そして
冷たい白ワインに良く合うことは
言うまでもありません。
「生ハムメロン」を食べた後は、不思議に
食欲が湧き、キノコのフィットチーネ
(パスタ)もペロリと平らげていました。
この「生ハムメロン」。
イタリアではアンティパスト(前菜)として
出される有名なメニューなんです。
(今ではご存知の方も多いかと思いますが)
その後この味を知ってしまったスタッフが、
パスタを食べた後に、もう一度お代わりを
してしまった程日本人スタッフに大人気!
私が初めて知ったイタリアの夏の味。
運良く初日から心地よい夜を迎えられたので
ありました。
さて、ここからが本題です。
これからご紹介するのは、
初めてのイタリア取材の際に出会った
『王様』と呼ばれる「生ハム」のお話です。
生ハムの王様『クラテッロ』
エミーリア・ロマーニャ州/
ポレシーネ・パルメンセ
車でどれくらい走ったでしょうか。
ともかくそこは、途中いくつかの町を
通り過ぎ、牧草地や麦畑が広がる農道を
随分走った末にひょっこり現れた・・・
そんな印象のある小さな町でした。
町の名前はポレシーネ・パルメンセ。
私達が、この町を訪れたのが7月の暑い
時期だったこともあり、昼間、町中で
ほとんど人の気配を感じる事はありま
せんでした。
きっと暑さを避けて家の中にいるのか、
バカンスにでも出ているのでしょう。
そんな町の様子を見ながら辿り着いたのが
一軒のレストランでした。
中に入ると、そこは、TシャツにGパン、
スニーカーという井出達で足を踏み入れても
良いのかと躊躇してしまうほどの高級感が
漂う店。
丸いテーブルを綺麗なテーブルクロスが覆い、
おそらく値段も高いのだろうと思える皿や
ナイフ、ワイングラスが並んでいます。
小さな町のはずれにある店としては、意外な
ほど高級レストランの雰囲気が漂う店内に、
まだ場慣れしていなかった私は、結構戸惑い
ながら席に付いたのを覚えています。
今回の目的は、この町の名産といわれる
生ハムの王様「クラテッロ」の撮影です。
その打ち合わせと試食のために、この日
このレストランを訪れたのでした。
生ハムといえば、私が、初めてイタリアを
訪れた夜に食べた「プロシュート・エ・
メローネ(生ハムメロン)」の、
あの瑞々しく、しっとりとした食感が思い
出されます。
あの時、長旅の疲れで食欲がなかった私に、
食欲を取り戻してくれたのが、この生ハムと
メロンの組み合わせでした。
ましてやここは、生ハムで有名なパルマの
すぐ近く。
産地の生ハムがどれだけ美味しいものなのか
その生ハムの王様といわれる「クラテッロ」
の味がどれほど違うものなのか。
私は期待いっぱいに、その前菜が来るのを
待っていました。
待つこと数分。
目の前に運ばれてきた「クラテッロ」は、
その昔、裕福な貴族階級でなければ食べる
事が出来なかったと伝えられている生ハム
の最高級品。
深みのある赤身の肉に、うっすらと霜降り
肉のように白い脂身が入ったその姿は、
いかにも「王様」と呼ばれるに相応しい
風格を漂わせていました。
イタリアに住んでいる人でも滅多に食べる
事の出来ない「クラテッロ」。
その材料は、豚の腿肉で作られる一般の
生ハムとは違い、豚のお尻の肉を使って
作られています。
つまり、一頭の豚からは2つしか作る事が
出来ない貴重なものなのです。
おまけに、丹念に作り充分熟成させた生ハム
でも、厳密な検査が行なわれ、
「クラテッロ」と呼ぶに相応しい品質で
なければ、その名を付けることがないという
贅沢なもの。
この町の工場でも、その品質を落とさぬよう
ひとつひとつ手作りで丁寧に作っていました。
その手順は・・・
◇まず、豚のお尻の肉を切り分け、
余分なものを切り落とす。
◇粗塩に粒胡椒を混ぜ、肉に揉み込む
ようにすり込んでいく。
◇次に、ニンニクを潰して赤ワインの中に
入れ、肉全体に行き渡るようにかける。
◇肉を豚の膀胱で包み、型崩れしないよう
縄で縛る。(豚の膀胱に入れて保存する
と水分の蒸発がゆっくりと行なわれる
ため、旨みも逃げず熟成に良いという)
◇そして蔵の中で、肉の大きさがおよそ
半分くらいになるまで自然乾燥&熟成
させる。
この期間が約1年間。
◇その後、厳密な検査により、
「クラテッロ」と呼んでも良い品質の
ものが選ばれる。
この行程の中で大切なのは、約1年間、
蔵の中で乾燥・熟成させている間に
豚肉に影響を与える自然環境です。
石造りで建てられた古い建物を貯蔵庫に
改造した蔵の中は真っ暗。
その暗い部屋にはたくさんの肉が吊り下げ
られ、熟成の時を待っています。
中はやや冷んやりしていますが、特に部屋の
温度や湿度をエアコンなどで調節している
訳ではなく、窓は年中空けられたまま。
外気がいつでも通るようにした状態で
保存されているのです。
レストランの人が言うには
「この町の近くにはイタリアで一番大きな
川・ポー川が流れていて、ここは夏でも
冬でも霧がかかるほど湿気の多い場所。
そして、その湿気があるからこそ、
美味しい『クラテッロ』が生まれるんだ」
という事でした。
つまり「クラテッロ」は、この町周辺の、
この気候条件でしか作る事の出来ない
貴重なもの。その味こそが「生ハムの王様」
といわれる所以なのです。
さて、こうして出来上がった「クラテッロ」
もちろん、そのまま薄く切り分けて食べても
美味しいのですが、このレストランでは更に
美味しく食べてもらおうと、ちょっとした
工夫を施していました。
まず食べる前に、熟成した「クラテッロ」を
水洗いし、肉を包んだ膀胱の部分をはがし
ます。
そして、取り出した肉を布で包んだ後、
瑞々しさを取り戻すため白ワインをかける。
こうすることで、熟成しながら乾燥していた
水分が補給され、その肉の味に深みが出ると
いうことでした。
薄く薄く切り分けられ、バラの花の如く盛り
付けられたその姿はまさに「生ハムの王様」
表面の艶やかな光沢を楽しみながら
「クラテッロ」を口に運ぶと、乾いた喉に
心地良い瑞々しさが広がり、またその味は、
普通の生ハムよりも塩分控えめ。
しかし、だからこそ生ハム本来の旨みが
楽しめる上品さが感じられました。
当時の私にとっては、ちょっと塩味が薄い
気がしたのは正直なところではありますが、
口の中に広がる生ハムの瑞々しさ、そして、
あの脂身のほのかな甘さを取材初回で味わ
えるとは、私も幸せ者だったと思います。
ただ、今思うと、あの「クラテッロ」で
「生ハムメロン」をしてみたかった・・・
それを試さなかった事が残念でした。
今更かもしれませんが「生ハム」のことを
日本では「Prosciutto(プロシュート)」と
言います。
ただイタリアでは一般的に「プロシュート」
というと豚肉で作ったハムのことらしく、
prosciutto crudo(プロシュート・クルード)
と呼ぶのが正解だそうです。
では今回はこの辺で・・・
continua alla prossima volta
(次回に続く)
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