没後100年 山村暮鳥 ささやかなオマージュ作品集 ーはじめにー

生誕140年、没後100年を記念して、「囈語」(げいご。うわごととも)という詩をもとに、いろいろなオマージュの創作を試してみたいと思う。

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明治・大正期の詩人、山村暮鳥。「囈語」は、大正4年に発行された詩篇『聖三稜玻璃』に収録されている。
ここに、詩の全文を引用する。

囈語

竊盜金魚
強盜喇叭
恐喝胡弓
賭博ねこ
詐欺更紗
涜職天鵞絨
姦淫林檎
傷害雲雀
殺人ちゆりつぷ
墮胎陰影
騷擾ゆき
放火まるめろ
誘拐かすてえら。

「囈語」に並ぶ13の言葉は、すべてある一定の特徴を持っている。
それは、「美しいモノが、不道徳を示す名詞で修飾されている」ということだ。

下の言葉を修飾する二字熟語はみな、人為的な危害行為、犯罪だ。
一方、それらに修飾されている名詞はみな、人ではない。身近な動植物や雑貨や自然の光景で、しかも人から愛玩されるものばかりである。

だから、脈絡がないのだ。言葉の上下ににわかに繋がりを見ることができないため、奇妙な違和感を覚える。

しかし、ここがこの詩の面白いところなのだが、繋がりは認められないものの、上下が互いに侵蝕する作用は見てとることができる。

たとえば、〈窃盗金魚〉であれば、無垢な愛らしい印象の〈金魚〉が、〈窃盗〉によって、油断のできない狡猾なイメージを付与される。
それとともに、〈窃盗〉は〈金魚〉によって、どこか滑稽でおどけたイメージや、感傷的なイメージが加わる。

つまり、両方の言葉に対する一般的な価値観の転換、または好感度の変動(ゲインロス効果=ギャップ萌え)が起こるのだ。
それは、なにか特別な物語を予感させ、不思議と興味をかき立てられる。

では、ここには一体、どんな物語が秘められているのだろうか。
暮鳥はおそらく、その物語を読者それぞれにゆだねたのではないかと思う。
人間の業と、人間の愛。
プリズムが光を屈折・分散させるように、この詩も、人の心にさまざまな物語を想起させるようだ。

暮鳥はキリスト教の伝道師だったが、ここでは宗教的な解釈に縛られず、「囈語」からの自由なインスピレーションでオマージュを作っていきたいと思う。

ただ、尊敬する詩人へ捧げる作品に、妥協はしたくないという気持ちがある。
それに、この詩のことをじっくり考える過程がとても楽しくもあるので、生活のなか限られた時間を使ってのスローペースな製作になるだろう。

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