JACKまぐろ-_10_p

マグロそば〜ローズマリー風味〜

「マグロそば〜ローズマリー風味〜」を頂きました。

しなやかな技巧美が立つ玄人好みの一杯といった趣のこの作品は、もし私が初訪のお店で頂いたとするならば、その瞬間に生涯その店主様のファンとなることを誓える程の内容でありました。

一口目から作り手の才能を覚えずにはいられない、謙虚にして創造的な、料理人としてのセンスに満ち溢れたこの一杯は、特にマグロのスープの味わいをある程度知っているという方にほど絶対に味わって欲しいと思えるアレンジの妙によって類まれなる輝きを帯びていました。

スープは口当たりにローズマリーの香り、時折ほのかなオリーブオイルの香りを覚えさせます。
そしてその味わいを淡く軽やかになびかせつつ、上品にして透明感ある鶏の味わいを美しく浮かべます。
そしてこの圧倒的に控えめなオリーブオイルの演出に、プロ目線のデリケートな仕立てが感じられます。

濃厚なつけ麺が看板メニューのお店の作品でありながら、このデリケートな淡麗系作品においてなお「らしい」と思わせられるのは、このお店ならでは表現力の幅広さと、何よりも欠点を一切感じさせない完璧な味覚バランスを表現し続けてきた実績によるものだと思います。

そんな口当たりに続く中盤では、マグロスープの味わいがそこに緩やかに重ねられていきます。
そして後味ではローズマリーの少し曇りのある、鼻をくすぐる香りが高揚し、食べる者を酔わせるのです。

このマグロ出汁からハーブ(ローズマリー、タイムなど)への流れがあまりにも素晴らしく、これこそこの作品の凄みであると思えます。
マグロ出汁のスープにありがちな少し辛気臭い、ややひなびた味わいといったものがハーブの個性で色気を帯び、その気難しい個性さえもが大人の味わいへと昇華させられているのであります。

ところでマグロ出汁のスープというと、マグロ節を使った静岡県のご当地ラーメン「てっぺん」の数々が思い出されます。
しかしこの作品はそのいずれと比べてもマグロ出汁にキメの細かさが主張されており、その風味に厚みを覚えさせるものでもありました。

マグロ出汁のもつ枯れ感や酸味は、時にスープの古さと誤解されかねない性格を持ってもいるように思うのですが、この作品はここにハーブを重ねることで、その問題の全てを払しょくしています。
タイム?のほんのりとした辛味が、マグロ出汁の枯れ感に締まりを与えながら風味に高揚感を導けば、ローズマリーの捻りの効いた香りはマグロ出汁の酸味に色気を食い込ませ、舌に波打つような躍動感ある美しさを演出します。

―――もうね、この時点でこの店主様の天才ぶりってヤベーなと!!

マグロの難しい性格がハーブによって柔らかな色気を帯び、同時にローズマリーやタイムのような風味に尖りのあるハーブの個性に対しては、鶏と魚介出汁のスープがその刺々しさを和らげています。
ハーブの個性をキリリと効かせながら、一方では淡麗のスープにもなじむ柔肌を生み出すそのアレンジは徹底して巧みであり、何より美味しいマグロスープの味わいを知っている人ほどクオリティーで感動させてしまうような実力を帯びています。

トッピングされた大ぶりのカジキマグロも柔らかな肉感を感じさせつつ、和風出汁の淡麗スープに西洋料理のエッセンスを重ねていき、このスープにいくらかのエキゾチックさを内包するエレガントさで説得力あるフィニッシュを決めるのです。

そしてこのカジキマグロのソテーを通じて食べる者の意識は魚介出汁へと導かれ、さらにカブのトッピングによって和の情感が高められていくことで、この作品の本質が引き締まっていくのです。

麺はしなやかなストレート麺であり、スープの味わいに濁りを与えることなく、その穀物感をやわらかに楽しませます。
そしてそこに内包される全粒粉の個性は、マグロの枯れ感を肉のある表情へと誘い、スープと麺の調和と語るだけでは物足りない、まさに共鳴とも言うべき表現性を完成させるのです。

ローズマリーの風味は麺に強く絡みます。
しかしその個性がわずらわしく感じられないのは、この一杯が終始バランスに長けた表情を持っているからでありましょう。
マグロ、そしてハーブ(特にローズマリー)という強烈な個性すらも、しなやかに纏め上げたこの一杯には、創造力の高さと、その創造力を具現化する技術力の高さが漲っています。

―――そう、これは強烈に凄い一杯なのです!!

「今時、ラーメンが美味いなんてのは当たり前、巧いと唸らせられるラーメンを食べさせろ」と思っている生意気な貴方こそ屈服させられる、本物の名作だと断言できます!!

最高です!!
私はこのような作品と出会うためにラーメンを食べ歩いているのだと再認識させられる名作でありました!!

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