見出し画像

そして2013年4月1日、この時期恒例の虚構レビューが始まった・・・

まずは本日、このような機会を設けて頂きました店主様、ならびにスタッフの皆様方に心から感謝申し上げます。
 
一部の方は既にご存じかと思いますが、私の息子は現在、伊東市の中華・ラーメン店でありますT様(ご迷惑が掛るといけませんので店名は伏せさせていただきます)に、お世話になっております。
 
実は先日、その店主様より「明日、息子さんに麺あげをさせるから、食べに来てよ」というメールを頂きました。
本当に心優しい店主様であります。
息子が初めて麺あげするラーメンを、その父親…それも私が厚かましくも勝手なるグルメレビューを趣味としていることを知りながら、わざわざ招待してくれるというのです。
 
緊張感からか、お店には開店時間前に到着しました。
時間に余裕があったことで、逆にその綺麗でお洒落な外観に改めて感激させられました。
とてもではありませんが、ここがラーメンが人気のお店だとは簡単には予想できるものではないでしょう。
 
ちなみにこのお店、これまでも何度か訪問させて頂いているのですが、いずれも息子が休みの日ばかりを選んで訪問しておりました。
それは親子であるという照れ臭さではなく、まじめに料理の道を志す息子に対し、趣味で勝手レビュアーなどを楽しんでいる自分の姿が恥ずかしくも思えていたからなのです。
この日、初めて厨房に立つ息子の姿を見ました。
 
扉を抜けると、いつものようにお洒落で、清潔感と温かさに溢れた内装が広がります。
その奥にある厨房から息子は私に「いらっしゃいませ」と挨拶をすると、後は少し照れくさそうに下を向き、何かを仕込んでいるしぐさを見せました。
 
この日私は、このお店の自慢の逸品、黒ゴマ坦々麺をオーダーしました。
息子の様子は何よりも気になりました。
しかし息子を緊張させたくなっかったというよりは、勝手レビュアーを楽しんでいる自分自身が恥ずかしく、とうとう厨房に目を向けることはできませんでした。
 
ほどなくして、息子が初めて麺上げをした一杯が届きました。
 
美味しい麺でした。
その美味しさには本当に驚きました。
個人的な感情を抜きにして、これだけ美味しい太麺にはなかなか出会えるものではありません。
口の中でもさっとしながらも、舌触りから小麦の甘みを感じさせます。
噛めば適度なコシを感じさせます。
歯切れでは十分な肉感が優しくふっと消えるような感覚が得られ、切れた麺が口の中に残す重みが堪らなく心地よく感じられます。
ただ単に太くてコシがある麺ではなく、終始生命感を覚えるが如き質感に、作り手の人間味と懐深さが伝わってくるように思えます。
湯切りで傷を負った感じも、潰れた感じもなく、しかし一方では湯切りの不足を感じさせるような麺の舌触りやスープの濁りもありませんでした。
このお店にはいくつもの麺がありますが、このような素晴らしい麺を息子の麺あげする最初の一杯に選ぶことができたことは、本当に良かったと思います。
 
スープももちろん美味。
黒ゴマの個性がしっかりと感じられながらも、ベースとなるスープの動物系の個性は潰されることはありません。
スープの優しい味わいが広がりながらも、黒ゴマを軽やかに立ち上げ、そしてスープの旨みが穏やかに変化していく後味では、スープの内側からさーっと辛みが広がっていくのです。
山椒と思われる味わいが大人びた色気を低域で奏で、そこに柑橘系を思わすような心地よい甘みが微かではありますがうるりと流れていきます。
 
トッピングの野菜も、自然にこのスープに調和し、同時に麺の生命的な味わいに躍動感を添えます。
中華料理にも長けているこのお店の実力が、トッピングからも感じ取れます。
 
大変美味しい一杯でありました。
そして何よりも優しい味わいでありました。
黒ゴマ坦々麺という刺激を足し算していくような料理ですらも、しっかりを穏やかさを残し、食べ終えたときに自然と笑みがこぼれるような柔らかさを持っています。
そしてスープやタレ、黒ゴマ、薬味などの味わいが、心地よく互いを濁さずに階層を重ね、穏やかにして様々な色彩が温かく表現されていました。
 
以前、ある中華料理店の店主様から「料理は足しっぱなしではダメ、足したらその分だけ引いてあげることが大事」という話を伺い、感動したことがあります。きっとこのお店もそのようなことを意識された体に馴染む料理を心がけているのだと思います。
ラーメンという刺激性を重んじることの多い料理において、しかも坦々麺というそれこそ刺激性に特化しがちな料理において、この一杯はどこか心を軽やかにしてくれる味わいを提供してくれました。
 
この一杯を頂いただけで、息子がお世話になっているこのお店の店主様の優しさが伝わってきます。
旨みの強さと技の高さで唸らそうとすることに拘りすぎることなく、むしろ料理を通じて席を囲む仲間との会話が一層華やかとなり、食べるたびに笑顔が溢れていくことを喜びと感じられる人の料理なのだと思います。
このようなお店で息子がお世話になっていることが本当に嬉しく思えました。
そしてそれと同時にその恵まれた環境がどこか羨ましく、嫉妬すら覚えてしまったことも事実です。
店主様、本当にありがとうございます。
息子が初めての麺あげをするこの日、店主様が私をご招待して下さったことは一生忘れられないと思います。
とても素晴らしい一日となりました。
改めて感謝申し上げます。
 
そんな満たされた思いの中、ふと壁に飾られたカレンダーが目に入りました。
そう、今日は4月1日です。
世間ではこの日をエイプリールフールと呼び、嘘をついても許される日としているそうです。
 
ちなみに本日の私のレビュー、「息子の話」と「料理の美味しさ」のどちらか一方は全くの嘘であり、どちらか一方は全くの真実であります。
読者の皆様、本日は最後の最後まで私の嘘にお付き合い頂き、ありがとうございました。
 
「息子の話」と「料理の美味しさ」のどちらが嘘のエピソードだったかについては、皆様のご判断に委ねます。
そんな真実と演出の表裏一体感が、なるほどこのお店には似合うような気がします。
 
ところでこの黒ゴマ坦々麺、伊東市にあります中華武ぞう様で頂いたものであります。
素晴らしいお店です。
上の息子が中学を卒業したら、是非一度連れて行きたいと思います。
 
それでは皆様、素晴らしいエイプリールフールを♪
 

いいなと思ったら応援しよう!