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病室という社交場日記(田舎篇②)

「命をもろどっでしょうがなか」
この病棟で何十年かぶりに再会したという、間もなく91歳!同級生の会話。
生きたいわけでもないが、生きなければ仕方ない
それをさらりと当たり前のこととして共感しあっている。
ふたりとも戦争体験者だ。(当時の話を聞きたいがいかんせん耳が遠く、病棟でははばかられる音量となりそうだ)

同室の80歳Dさんが退院し、昨日から仲間入りした90歳のMさんは、とても耳が遠いが、頭はクリアでポータブルトイレを使用するたびに「ごめんなさい」と断る。「気にすることはないよ、みな同じですよ」と言っても聞こえない。
そしてMさんは、悔しいと、ときどき涙を流す。
「昔から男の人を立てなさい、と言って育った。なのに、今、その男の人たちに“しも”の世話をしてもらっている。こんな風になった自分が悔しい」。
昭和40年代生まれ、保守的といわれる鹿児島育ちの自分ですら、Mさんのことばに衝撃を受ける。

かたやもう一人の、もともと同室だった90歳Sさん。
がりがりに痩せて(恐らく35kgぐらい)「バラバラが痛い」が口癖。腰を圧迫骨折していて胴体にがっちりしたサポーターをつけているせいか
どうやら背骨がバラバラになっていると思い込んでいるらしい。でも入院も2か月となり、意外といろいろ、できる。突然サクッと起き上がって洗面台で入れ歯を洗ったりしている。
わかっていても、よわよわしい見た目やらたどたどしく語る言葉、まるで子供みたいな姿に、あれよこれよとつい手をかけてしまう。
付き合いも3週間を過ぎたという世話焼きのYさんは、「なんもかんも、すぐ人にさせようとして。駄目よ~」と手厳しい。そしてなんやかんや世話をやく。

対照的な90歳。
甘え上手と誇り高き女性。
二人が生きてきた人生をいろいろ想像せずにはいられない。

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