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私の課題が誰かを救う―『マイノリティデザイン』を読んで
目次を読んで、うーん、またコピーライターの案件自慢の本かなあ、と思った。そういう本はいくつか読んだことがあるけど、自分が手がけた案件のすごいところばかり書かれても、結局のところあまり参考にはならないのだ。
でもこの本はちょっと違った。いや、結構違った。タイトルにある「マイノリティデザイン」は、コピーライターである著者の人生のコンセプトだ(人生にまでコンセプトを掲げるというところがまさにコピーライターっぽい)。この「マイノリティデザイン」を始めるに至った経緯やこれまでに携わった仕事を紹介しながら、小さな物語が徐々に大きなうねりになっていく様子を、血の通った言葉で書いていた。
著者には目の見えない息子がいる。そのことがきっかけで福祉の世界に足を踏み入れ、マイノリティのための案件を手掛けるようになる。そして著者自身が「運動音痴=スポーツ弱者」であったことから、運動能力に関わらず楽しめる「ゆるスポーツ」を考案し、多くの人を巻き込んでいった。
私はある分野においてマイノリティだ。そのマイノリティ性について嘆いたり、不満を持ったり、自分を責めたりすることもある。あるいは、無理にポジティブになろうとすることもある。個性だとか自分らしさだとか、そういうキラキラした言葉で片付けようとしたことも、数えきれないくらいある。
だからこそ、「自分の持つマイノリティ性を、自分だけが見つけられる課題として捉える」という考え方がおもしろいと思った。
たとえば、映画監督に「幸福な家族を撮ってください」とお願いしたら、ある程度似通った画になると思います。家族で食卓を囲んでいて、大型犬がいて、暖炉があって、みたいな。一方で、「不幸な家族を撮ってください」なら、千差万別です。無数に表現方法はあります。
つまり、「弱さ」の中にこそ多様性がある。
本文から引用
マイノリティ性を「弱さ」と表現するのは、ちょっと勇気のいることだと思う。私もこの本を読み始めたときは、「マイノリティだからって弱いわけじゃない!」と、ちょっと反発したくもなった。でもなぜだか、キラキラした言葉で言いくるめられるよりも、よっぽど納得感があったのだ。腫れ物扱いするのではなく、見て見ぬふりをするのでもなく、ただそこにあるものとして認められている感じがする。そして何より、弱さを弱さと認めるところが課題発見の第一歩になるとわかった。
私の幸せや私の強みは、たくさんの人が同じようなものを持っているし、どんなに伸ばそうとしても上には上がいる。でも、私の弱さは私だけが見つけることのできる課題かもしれない。私だけの課題を解決することは、マイノリティである他の誰かを救うかもしれないし、マジョリティである他の誰かのことも守れるかもしれない。課題があるって、大変だけどわくわくする。可能性を感じるし、挑戦することで強くなれる気がする。
そして著者は、「自分や誰かの弱み」を「自分や誰かの強み」とかけ合わせることで、「弱み」から価値を引き出してきた。広告業界で働いてきた著者にとって、その「強み」はコピーライティングだったりコンセプトづくりだったりする。それは著者にとって特別な能力ではなく、「今までやってきた、当たり前にできること」である。今の自分にはないスキルを新しく身に着けることも大事だけど、自分が今すでに持っている力を活かしてできることもあるはずだと思わせてくれた。
本の後半には「人生のコンセプト」をつくるための具体的な方法やアイデアの発想法も書かれている。読み終えたときには人生の武器をひとつ手に入れたような気分になった。私は私の弱さの中からどんな課題を見つけて、誰のために生かしていこうか。これからじっくり考えていきたい。
・読んだ本
『マイノリティデザイン―弱さを生かせる社会をつくろう』著者:澤田智洋
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