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細江英公さん

 たしか2015年か、2016年に、八ヶ岳に行った帰りに、写真好きだった友人の希望で清里のフォトアートミュージアムに展示を観に行った。確かプラチナプリントの展示をやってたかな。ぼくはまだ自分のデジタルカメラすら買ったことがなかったと思う。美術鑑賞は好きだったけど、何かを作るということもしてなかったし、写真というカテゴリーに特段思い入れもなかった。

 普段はいないのに、たまたま館長の細江英公さんが館内にいて、カメラを下げた友人に学芸員さんが声をかけてくれて、細江さんと友人が記念撮影をさせてもらえることになった。
「シャッターボタン押してくれ!」
と言われいきなり友人のライカM6を渡された。
ボタンを押すだけでいいと言われ、よく分からないまま友人の真似をしてファインダーを覗いてボタンを押した。
「ブレたね」
と細江さんが少し笑って言った。
ぼくはすいません、と言ってもう一枚撮影させてもらった。
 その後、友人はヤングポートフォリオに応募しなさい。と言われていた。自分は少し離れた所にいたが、わざわざ自分の所にも来て、君も応募してね。と声をかけてくれた。
「あ、でも、ぼく写真やってなくて…」
と言うと、
「大丈夫、君にもできるよ」
と目を見て言われた。
えっ?俺にもできるの?となんだか凄く驚いた。
 学芸員さんが、絶対サインを貰った方がいいですよ、と言ってくれて、その場でポストカードを買ってサインをしてもらった。

 家に帰ってからも時々、そのことを思い出して考えていたけど、なんだかその内に本当に自分にもできるかもしれないと思うようになった。本当は何かやりたかったのに、できないと思い込んでいたから、背中を押してもらえたような気持ちがしたんだと思う。だから、ヤングポートフォリオ2019で作品が収蔵された時は本当に嬉しかった。心よりご冥福をお祈りします。ありがとうございました。

 

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