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【詩作】台風の日


園田駅を過ぎた頃に雨足は強まって
蒸した車内にリズムが鳴った
大きな川こえて いつだったか
君に会ったことを懐かしんだ
競馬場はがらんとしてて、
寒気がこっちまで来たようだよ
弱冷車のくせして 鳥肌が立った腕をさすって
スマホをいじりながら
人気のアイドルが恋愛してたって知った
興味ないなぁ、ああ、
思い出話のほうが面白いのは
年を食ったせいかしら
汗ばんだジーパンの内腿が気持ち悪いから
銭湯で熱い湯にでも浸かりたい
だるい時はだるいままに
優しい時は天邪鬼
あんなに笑った日々のことが
車窓を這う水滴みたいに
どこかへと
中津駅、人はなく
いつだって、正しい形で電車はゆく
だから間違った時、人は怒るんだ
僕はどうだったかな
長い季節の真ん中で
眠たい夕方は午前の名残
僕も今日は会社を休んだ
君は今何してんのかな
特に聞きたいこともないけれど
会ってみたいと思った
イヤホンから流れてきたのはコルトレーンの
あれ、なんだっけ、ほら
終着駅は梅田、その手前
電車は強風のせいで止まっちゃったよ
僕はたどり着けないみたいだね、いつも
車軸を流す、雨の音
灰色の大阪、それでも人は動き
無くしたものを知らん顔
ヴォリュームを上げて 
耳が壊れるくらいに
聞こえる、ピアノの音
聞こえる、昔のこと
言いたいこともなかったから
聞こえるままに聞いた
ピアノの音、雨の音
ピアノの音、雨の音
ピアノの音、雨の音
そのリフレイン


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