地球一周の船旅のなかで、アメリカのシアトルを訪問する機会があった。
それまで、私の中のシアトルのイメージはイチローとスタバ、そして海沿いのおしゃれな街であることぐらい。
でもこの訪問はすこし特別な機会になった。
ネイティブアメリカンである、スコーミッシュの人たちに会いに行くことができたのだ。私も初めて知ったのだが、実は「シアトル」という地名の由来は、かつてスコーミッシュを率いていた「シアルス酋長」という人の名前から来ているという。この街がある場所は、実はもともとネイティブアメリカンが暮らしていたところだったのだ。
歴史の大きな流れの中で、シアトルには入植者が大勢押し寄せてきた。
その時、入植者たちは、これまでスコーミッシュのひとたちが大切にしてきた自然を破壊した。お互いの関係も悪化し、スコーミッシュのひとたちを、郊外の「居留地」に強制移住させた、という。
このとき入植者はスコーミッシュを攻撃する場面もあったのだが、シアルス酋長は、一貫として「攻撃を受けても決して反撃してはならない、戦争ではなく話し合いや和解で解決に導こう」と人びとに語り掛け続けたのだ。
シアルス酋長は、スコーミッシュの人たちが守ってきた土地を買いたいという入植者に対して、居留地に移動させられる間際に行った有名なスピーチがある。
https://suquamish.nsn.us/home/about-us/chief-seattle-speech/
全米各地でネイティブアメリカンたちと、入植者の間にはたくさんの犠牲が生まれてしまった。中には被害の大きかったものもあると聞いた。
スコーミッシュの人たちはシアルス酋長とともに、武力行使や戦争という手段はとらず、心の中では自らのアイデンティティを強く守りながら抵抗し続け、悔しい想いをもって、居留地に移住したのではないかと想像する。
シアトルの街なかから、まずはフェリーに乗り、スコーミッシュの居留区へとむかう。ワシントン州キトサップ半島のポート・マディソン居留区と言われる場所で、現在人口は1150名ほどだという。みなさんとても温かく迎えてくださり、私たちに彼らの大切にしている沢山の場所を案内してくれた。
例えば、かつて漁をしていたという豊かな海岸。いまでも貝殻がたくさん落ちている。そしてコミュニティを守る伝統的なモニュメントがある場所。人々が集う集会所や子どもたちにスコーミッシュの伝統文化を伝えるための大切な学校。そしてシアルス酋長のお墓。場所ごとにたくさんの話をしてくださり、スコーミッシュのコミュニティや文化への愛がひしひしと伝わってきた。
スコーミッシュの人たちは、海や森からの恵みに感謝をしながら暮らしている。独自の言葉を持ち、大切に受け継いできた文化を、次世代に繋いで行こうと努力を重ねている。その努力の甲斐もあって、現在では、教育や医療などの権利を州政府から勝ち取り、自治を進めているという。
https://suquamish.nsn.us/
https://suquamish.nsn.us/home/about-us/history-culture/
世界には多様な文化が存在し、それらに優劣はない。
それぞれが尊く、大切にされるべきものだ。
文化は、その土地の自然やこれまで先祖たちが過ごしてきた日々の積み重ねに深く根付いており、それらも含めて尊重されるべきものだと思う。そして多様な文化が共存する世界は、本当の意味で豊かだな世界だとおもう。
シアトルで出会ったスコーミッシュ人たちが私に沢山の大切なことを教えてくれた。そしてまた、ぜひとも彼らに会いに行きたいなと思った。