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マーダーミステリーのプレイヤー不在

 マーダーミステリーは、『ハグル』のようなプレイヤー各人が情報を持ち、それを取引する遊びと、人狼や謎解きで親しまれてきた論理的に推理やパズルを解くといった遊びに、シナリオをその登場人物となって追体験する遊びが組み合わさったジャンル(であってます?)。最近、初心者向けのシナリオをプレイすることができました。セッション自体は楽しくプレイできたのですが、どうも先に上げた各要素が上手く組み合わさって楽しくプレイできたかというと…なんだかなあ、モヤモヤとした感じが残りました。
 そこでジャンルとして内包している要素をそれぞれ見ていって、なにが自分をモヤモヤさせたのか説明したいと思います。
 ※あ、唯一の立場なんで犯人は楽しいと思います。自分は犯人できてないのでここでは無視してます。

ハグル 

 まず、各人の持っている情報をうまく組み合わせて真相に辿り着く『ハグル』的遊びです。(ハグルは真相というより点数の構造だが、本質的にはあまり変わりません)
 ロールがあるため、最初の交換のとっかかりにはなりやすく情報交換が進みやすいのはいいところだと思いました。
 しかし、目的は点数の最大化ではなく、何らかの真相解明(犯人特定でも、個人の目標でもよい)となるため、情報を全く出さないか、みんなにオープンにするかということになりやすいと感じました。また、プレイヤーの意志でなくロールの要請でプレイヤーが情報の扱いを非公開にすることに傾きがちで、自由意志の選択になりにくいと思います。(とりあえず、情報を出さなければ真相や秘密は暴かれないですからね。)
 つまり、最初はロールが取引の潤滑油となり情報を様々に行き渡らせますが、真相解明という段階になるとロールの要請でプレイヤーの意思決定を無視して阻害する可能性があります。ロールとハグルの組み合わせでは一長一短を生み出してしまっているといえます。

役割演技 

 それぞれのロールを演じるTRPG的な遊びとしてみると、確かにロールが与えられ、背景の情報も一般のTRPGより多く与えることもできるので、役割を演じるという体験はしっかりと存在します。しかし、終演までに自分がその役割に追加できることが実はほとんどないのが気になりました。
 始まりと結末がシナリオにより固定させられていますから、劇中で行われたことと結末に必ず断絶があることになります。つまり、せっかく生身の人間がやっているのに、誰がやっても同じになる部分が実は多いのではないでしょうか。(もちろん結末の分岐は用意されているだろうけども、それは劇中での経過とは関係がありません。結局、結果のみが結末だけに影響を与えています)
 また、没入感から考えても、途中のみのロールプレイとなるため、与えられたキャラクターをその範囲で演じることが主となるでしょう。さらに何か付け加えたり独自の解釈を持ち込んでしまうのは危険な行為になるかもしれません。シナリオの大目標である、真相の解明という目標を邪魔してしまうかもしれないのですから。
 ここまで否定的に書きましたが、キャラクターが固定されているのはいい面もあります。シナリオ自体の面白さがロールプレイによって損なわれないことです。この出来事がおきなかったとか、こういうキャラではなくなったから、シナリオの美味しいところが見せられなくなったということはほぼ起こりません。(情報を1人が握りつぶしたとかはあり得ますが、シナリオで誘導できる範囲でしょう)

マーダーミステリーとはシナリオを読むこととみつけたり

 ここまで整理した内容から考えると、マーダーミステリーは推理という知的体験をするための情報交換や、台本を読んでのロールプレイを餌にシナリオをしっかり読ませ、全員で確認させています。中身のように見えるし、そのように語られる「議論、情報交換」というのは、シナリオをよく鑑賞させる装置ではないでしょうか?
 つまり、シナリオ鑑賞がうまくいけば、「論理的な推理により犯人を当てることができるのか」という推理ゲーム要素は実はどうでもよいのです。(結局真相解明は1度の投票で決まるわけですし、ゲームに力点を置くと、真相解明を阻害する他の要素が邪魔に思えてしまうでしょう)
 個人の秘密目標も、シナリオ鑑賞の成否チェッカーで、これが失敗すると"あなたの"鑑賞は上手く行ってませんねと判定するだけのものです。これを他人と比較してのゲームの点数みたいな要素と見ないのは、鑑賞として当然のこととなります。だから、マーダーミステリーとはどう遊ぶのかな?と臨んだ私は、そもそも体験しようとしている部分がズレていたということになります。
 マーダーミステリーをするなら、今回はどんな話なんだろうかという受け身の姿勢が大事なのです。プレイヤー中心ではなく、あくまでシナリオを中心に据えて、それが与えてくれる面白さを参加者で最大化することを目標にしなくては、各要素の組み合わせに齟齬が生まれます。そして、最大化のための適切なロールプレイや推理を行うことが推奨されているわけです。(だから、システムはどうなんだろうとか、絶対犯人を当ててやるぞとかは適切な姿勢ではないのですね)

 実はマーダーミステリーの中心にはプレイヤーがいない、そこにはシナリオがいるのです。プレイヤーはシナリオをよく見るために、少し触れられる位置から参加します。だから、唯一の推進力を喪失させるネタバレ(シナリオ殺し)はこれからも厳禁だとされるし、どう工夫しても重要にならないゲームシステムがレビューで語られるようになることはないだろう。だとすれば、私がマーダーミステリーに想いを馳せるのもここで終わりとするのが適切だと思うのです。

それでは次はゲームをお楽しみください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ

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