俺だけが、まだ
小学生の時に、やたらとコックリさんが流行った。
コックリさんには地域差があれど細かいルールが存在しており、大体1プレイ30分以上かかるので、休み時間にコックリさんに聞きたいことや、儀式で使う紙に50音などを書いて放課後にやっていた。
多い時には、4人組5チームぐらいが教室でやってて、なんかその光景が面白くて「(ムフフ…多すぎやしませんかね…w)」と一人で笑っていた。
当時、私はあまりやりたいと思えず、誰かがやっているのを黙って見ているだけだった。みんな好きな人のことなどを聞いていて、「(え!みんな好きな人いるんだ!)」と違う意味でソワソワしたのを覚えている。
しかし、私の他にも1人だけ頑なに参加しない女の子(以下Aちゃん)がいた。
Aちゃんは私とは違うベクトルで変わっていて、小学生ながらに、さいとうたかをの「サバイバル」を愛読して常に裸足で校内を歩いていた。
前にAちゃんに「足冷たくない?」と聞いたら「足と手の感覚は鈍ければ鈍いほど良くて、急に山で生活する場合もあるだろうから、今はそれで頑張っているの!」と言われた。
鈍ければ鈍いほどいい、確かにそうかもね。
Aちゃんは参加こそしないけど、みんながやっているのを見るのは好きらしいく、それでよく2人で見ていた。
私がふと、「Aちゃんはなんでコックリさんに興味がないの?」と聞くと彼女は「だって、みんながやっているコックリさんは正しい方法じゃないもん。」と言った。
さ「え?そうなの?」
A「うん。もっと手順がたくさんあるんだよ。興味はあるけど、どうせならちゃんとした方法でやってみたいんだよね。」
さ「ちなみに正しい手順はどんなやつなの」
A「まずね、そもそもコックリさんは大人数がいる場所でやったらダメなの。1つの建物内でコックリさんをやる人だけでやらないとダメなの。」
さ「へ〜」
A「だからそもそも学校は無理なんだよね。教室に誰もいないとかそんなレベルじゃダメなの。職員室にも図書館にも誰もいないとダメなの。グラウンドは建物外だからいいけど。」
あまりにも詳しすぎる。
さ「なんでそんなに詳しいの?」
気になりすぎて聞いてしまった。すると彼女は突然、めちゃくちゃな早口で
A「ごめん、それは言っちゃいけないの。それはね、あーダメなんよ。言ったら。」
と言った。
さ「あ、そうなのね…(なんなんだよ)」
若干の気まずさを乗り越えた後、Aちゃんは正しいコックリさんの手順を教えてくれた。
・プレイ人数は3名(多くても少なくてもだめ)
・使用する儀式の紙は綺麗な紙を使用する
・必ず対角線上に窓がある建物内でやらないといけない
・実際にやる場合は窓を5cm開けておく
・使用し終わった10円玉は稲荷神社へのお賽銭として使う
もっとたくさんあったけど、こんな感じで結構細かいルールがあった。
さ「それだとなかなかみんなに言いづらいよね。」
A「そう!だからこうやってみんなのなんちゃってコックリさんを見るしかないんよ。カァ〜本物のコックリさんやりたいなぁ。」
Aちゃんの悔しそうな顔を見ると、なんだか急に私も本格的なコックリさんをやりたくなってきたので「私もちゃんとしたやつなら、やってみたいな。聞きたいこと特にないけど。」と言った。
すると、Aちゃんの目が避難ライトくらい光って私を見つめてきた。
A「本当?そしたら後一人集めて絶対にやろう!私聞きたいことたくさんあるから!!」
さ「せやね!あと一人誰がいいかな?」
2人であと一人を誰にするか考えた結果、小学生ながらに般若心経を完コピしているMちゃんに声をかけた。
Mちゃんはすでにみんなとコックリさんをプレイしており、盛り上がっていたので、これまでのルールとは違う手順のコックリさんにどういった反応を示すか少し心配だったが、提案したところ
M「なるほど、だからこれまでのは全然当たらなかったのか。私、なーんか勝手にケイタくんが好きってコックリさんに言われたんだけど、本当はユウジロウくんのことが好きなんだよね…」と言った。
それを聞いたAちゃんが「このやり方だと、絶対にユウジロウくんて言われるから、一緒にやろう!」と熱心にアピールし、Mちゃんも「うん、OK!やろう!」と承諾してくれたんだけど、自分で好きって分かっているならもうそれで良くないか?って思ったりした。言わなかったけど。
そんなこんなで3人集まった。
場所は教室ではなく、グラウンド横にある取り壊しが決まっている旧体育倉庫に決まった。
Mちゃんの公文がない日にやろうということになり、それから3日後に私たちは真・コックリさんをやることになった。
前日、コックリさんに聞きたいことを考えたが特に思い浮かばず、『コックリさんに聞くこと!』とでっかく書いた紙に「寿命」とだけ書いて寝た。
当日はいつもと変わらず授業を受け、放課後3人でアイコンタクトをし合いながら旧体育倉庫に向かった。
対角線上の窓を少し開け、倉庫内の机でセッティングを済ませ、コックリさんをスタートした。
Mちゃんが「コックリさん、コックリさん。私の好きな人は誰ですか?」と聞いた。
10円玉がスススス…と動いた。
皆に緊張が走る─
ユ・ウ・ジ・ロ・ウ
「ふぅ〜……これは本物みたいやね…」とMちゃんが言った。
私は10円玉を見つめながらAちゃんの指だけ圧がかかってめっちゃ赤いのに気づいたが何も言わずに「そう、、だね!」と返した。
Aちゃんが「コックリさん、コックリさん。いつか平成は終わりますか?」と聞いた。
すると10円玉がススススス…と動き、「いいえ」の上で止まった。
Aちゃんが「やっぱりそうか…」と言った。
私も聞いた「コックリさん、コックリさん。私は何歳まで生きられますか?」
ススススス…6…8…
さ「68歳か〜」
A「え…短いね…」
M「68か〜うちのおばあちゃんより若いじゃん」
この時、(寿命より、どうやって死ぬのか聞けばよかった)と思ったけど流石に知りたくないのでやめた。
そんなこんなで細かいルールがあった割に実際のメインの部分は他の子がやっていたことと何も変わらないので、私自身はそこまで盛り上がらなかった。でも2人はすごく楽しそうだったので、なんだか嬉しかった。
一通り質問を終え、コックリさんに帰ってもらい手順通りに紙も破いて捨てた。10円玉は帰宅途中に稲荷神社があるMちゃんに処理(賽銭)をお願いした。
旧体育倉庫を出て、教室に荷物を取りに行って、それからみんなでトイレに寄った。
ここで、とんでもないことが起こった。
手洗い中、Aちゃんが、誰かに引きずられたとしか思えない転け方をして、足首がお手洗い横の掃除用具入れの隙間に挟まって抜けなくなったのだ。
痛がるAちゃんと、完全に入り込んでしまった足を見て、急いで先生を呼びに職員室に向かった。
先生がすぐに対処してくれて、なんとかAちゃんの足は抜けたのだけど、泣いているAちゃんをみてすごく不安だったのを覚えている。
翌日、Aちゃんは念の為に病院に行くとのことで学校を休んだ。
Aちゃんの机をみながらMちゃんに「偶然だよね…」と言うと「偶然じゃないよ…絶対にコックリさんのせいだよ…」と言いながら彼女は沈んでいた。
しかもMちゃんが「私、親にその話したらすごく怒られちゃって、10円玉没収されちゃったの…昨日の帰りは結局、親が迎えに来たから神社も寄れなかったし、どうしよう…」
まさかの10円玉未処理問題が…
私も少しビビりつつ「まぁ、大丈夫でしょ…」とだけ言った。
その日は2人でソワソワしながら1日を過ごした。
また翌る日、足を怪我したAちゃんはさらに高熱が出て、引き続き休むことになり、なんとMちゃんも体調不良からのインフル発覚で学校を休んでいた。
さすがの私もそれを知って覚悟をした。次は俺の番だ…と
その日は朝から警戒心Maxで過ごすことにした。被害に遭うとしてもある程度の覚悟があった状態で受けたい。そんなことを考えていた。
そんな心持ちで過ごしていると、
3時限目の嫌いな算数が、先生の都合でドッヂボールに変わり……
ドッヂボールでとんでもない劣勢だったのに、逃げ足だけが早いので、なんだかんだ最後まで残って結局自分のチームが勝ってみんなからめっちゃ感謝され……
給食センターの都合で牛乳が用意できず、その日だけカフェオレになった……
いいことが、めっちゃ続いてしまった……………
でも、逆に怖い。とんでもない反動が来るのでは?
なんなら今日が命日になる可能性も…...?
そんなことを考えていたら、学校が終わった─
帰り道、事故に気をつけながら帰っていると、道端で500円玉を拾ってしまった。パクろうかと思ったけど、怖いので交番に届けた。
住む場所に帰ると、なんと夕飯がカツカレーだった。(しかもちゃんと家で揚げたトンカツ)
最高の1日に、なってしまった─
ちなみに週明けには、AちゃんもMちゃんもすっかり良くなり何事もなかったかのように過ごしたし、いつの間にかコックリさんブームは過ぎていた。
Mちゃんとユウジロウくんはその後、付き合って1回だけジャスコでデートして別れた。
Aちゃんは上履きをちゃんと履くようになり、めっちゃ頭のいい中学校に進学した。
二人とも、多分覚えていないような気がする。でも、私はよく覚えている。なぜなら、俺はまだ、罰を受けていないから…
コックリさん、コックリさん、俺への罰はまだあったりしますでしょうか?
あと、すみませんコックリさん。
平成、終わりました…(笑)今は令和っていう元号で6年目になります(笑)
コックリさん、俺、68歳まで頑張って生きようと思います。
あと40年あるんで…………
※ちなみにMちゃんについては過去にも書いたことがあるので、もしよかったらこちらも読んでいただけると嬉しいです。