さすらうの雑記#3 ユニテ通信『希望』初期のものから
死刑囚が普段どんな生活をしているのか?
情報は殆ど表には出てこず謎が多い。そんな中で90年代はじめの頃に死刑囚同士の情報誌として複数人の死刑囚たちにより『希望』が創刊された。
現在、ネット上では62号から79号までの17冊(64号欠)は【死刑囚・命と向き合う】というブログにて公開されている。
今回は創刊から18号までのうち大宅壮一文庫に所蔵されている13冊の中から気になる部分をまとめて発信することにした。支援者の誰かが寄贈したものと思われる。尚、索引データベース【Web OYA-bunko】ではヒットせず、HP上の書蔵検索OPACでのみ存在を知ることができる。
ユニテ通信『希望』の発起人
このユニテ通信『希望』は1992年2月に創刊された。
発起人は猪熊武夫(東京拘)を中心に村松誠一郎(東京拘)、津田章良(広島拘)、山野静二郎(大阪拘)の4人。ここに中元勝義(大阪拘)、荒井政男(東京拘)が入会。賛同人には澤地和夫(東京拘)、諸橋昭江(東京拘)が名を連ねる。他に後に無期懲役が確定した者もいる。
1996年2月の18号では福岡拘置所や高松拘置所に収監された者なども入会し14人にまで増えている。
(高田和三郎、藤井政安、松原正彦、松本健次、大石国勝など)
入会、賛同していても執筆してない者、入会してなくても執筆してる者もいる。
結成のいきさつは既にあった死刑囚情報誌の【麦の会通信】でT氏の除名問題のゴタゴタから「差別され排除された」とトラブルが発端となりそれなら別の会を結成するという流れのようだ。
この麦の会通信もネット上で一部が閲覧出来るので興味がある方は検索されたし。
※津田章良は津田瑛のこと。各死刑囚の名前のリンク先に漂泊旦那様のサイトを使用させていただいた。
猪熊武夫と村松誠一郎
猪熊武夫は7人兄弟の末っ子で猪熊自身には子供が二人いる。どちらも耳に障がいがありうまく喋れない。
面会に来た兄には「人殺しの親戚といじめられたり兄弟は散々な目にあっている。お前のことは早く忘れたいというのが親戚一同の偽りのない気持ちだ」と厳しい言葉を突きつけられたが当然であろう。猪熊は多数の国賠訴訟をしている。
『希望』には様々なイラストや表を書いているが、字も絵も上手く見やすい。
村松誠一郎はネット上で見れる写真の印象ではヒゲ面のおっさん顔であるが、自己紹介文では「トップバッターは明るい誠ちゃんの登場です!」とか「自分は芸術家タイプの感性派」「メリハリがあり一言多い」と自己アピール。自称身長175cm体重67キロでO型。水泳部の部長をしていた過去があり手足が大きい。「あ-」とか「あのね」とかを使い丸字で読みやすいが謎のテンションがとても印象的。
東京拘置所の生活
猪熊が90年代はじめ頃の東京拘置所での死刑囚の日常を書いているので抜粋して記す。
死刑囚は独居房である(間取り図)
入浴は一週間に2回で一回15分以内。夏は週3回で、一人用の浴槽が3つ並んでいて順番に入っていく。
洗濯は毎日OKで一回で上着下着合わせて5枚まで。
理髪は20日に一回で無料。顔剃りは週二回(月木)でお湯とカミソリと鏡を貸してくれる。
官本は週二回交換で一回二冊までとは別に、申し込めば図書館の本も借用できる。
医療は歯科治療は抜歯に許可が必要で許可が下りるのに半年かかることもあるので虫歯にはなれない。一般治療はまぁまぁ。重病者は八王子医療刑務所で手術もしてくれる。
手紙は平日のみ一日4通まで(電報除く)
運動は一日30分以内で入浴日はなし。運動場は縦10m横3mで監視台から扇状に広がった鳥小屋のような作り。
自弁購入品リストはさすらうのTwitterに上げているのでリンク先参照
食事は麦飯だが物相ともいい米7麦3の割合でコッペパンが土曜日の昼に出る。食器やカップは全てプラ。
以下が一週間の献立。他に当時は正月にはおせちが出ていた。
味をとやかく言っているが、朝昼晩食べれるだけでもありがたいと思うのだが…
懲罰
猪熊が8年ぶりに懲罰を受けた話。
刑務官に「オッス!」と言った言わないで、10日間冷たい懲罰房で朝8時半から夕方5時まで食事とトイレ以外は座布団もなしで壁に向かってただずっと座らされ、痔と風邪になったらしい。
この件は即提訴したようだ。
八王子医療刑務所
猪熊が肝臓にしこりが出来て開腹手術をしなくても薬で散らせると八王子医療刑務所に移監された話。
「今すぐにでも治療に入りたい」と半ば強制的に承諾書にサインさせられ八王子医療刑務所へ。
書き物一切禁止で読み物も限られた時間だけ
余談だか永田洋子は脳に腫瘍が出来て治療を希望したが点滴だけしかしてもらえなかったという話があるが(死刑囚からあなたへに記載)、事実なら拘置所側の裁量で死刑囚の命をどうにでも出来るという事にもなってしまうのだが…
他にも
初期の頃のユニテ通信『希望』には他にも多数の国賠訴訟の話や(大概は本件申し立ては却下)、澤地和夫が遺族に書いた手紙(これが謝罪よりも共犯の猪熊くんは無実という主張ばかりで遺族の気持ち的にどうなのか?という内容)、高松拘置所での一日や日用品の単価などなど貴重な内容が書かれている。
どの死刑囚も裁判官への不満や拘置所内での処遇に関する不満が内容としては一番多い。
字や絵や短歌はそれぞれの個性が出ている。
興味がある方はぜひ目を通していただきたい。
(大宅壮一文庫はコピー郵送サービスも有り)
※今回上げた図や表は猪熊が書いたものと思われる。彼の目的は死刑囚の処遇などの現実や問題点を外部に発信する事と汲み取ったのでそのまま掲載した。
また2007年で監獄法が廃止されたので2023年現在は30年前とは変わった部分もあるだろうと思う。