山小屋物語 9話 Why not? or die
秋も深まる11月。
山で一緒に満点の星空を見た番頭の田村くんから、
「あっこちゃん一緒に、パントマイムいかない?おもしろいらしいよ」と、電話が来た。
デートのお誘い、にしては、
8月にフラグを立ててから、回収までが遅すぎる!と思った。田村くんは女垂らしという噂も聞くので、いろんな女を垂らすのに忙しくて、順番にしていたら遅くなったのかもしれない。
私は芸術を学ぶことに関しては、ストイックな学生だったので、パントマイムと聞けば、ちょっと心が動いた。
「へえー行ってみようかな」
阿佐ヶ谷だったか、小さな劇場でパントマイムを観た。お客さんと演者の距離が近くておもしろかった。
帰り道、ふらんす亭でハンバーグを食べる事になった。さすがに都会の学生は、デートらしい店を選ぶなぁ。学生にとってはお高いディナーをご馳走してくれた。
(つくばには学食とRanRanとクラレットしかなかった。すべて焼肉定食四人前をバケツにひっくり返したような料理だった【誉めてる】)
別れる前、チケット代は俺が出すからお金はいいよ。
と田村くんが言った。
え、いやいや。パントマイマーの血と汗の努力の結晶である素晴らしい公演を観せてもらったんだから、自分で払うよ(キリッ)。といって、お札を田村氏の腕に押し付けた。
「・・・そういうとこ、好きだな」
「(悪い気はしないが)ちょっとキモ・・・」
「えっ、なんか言った?」
「なにも(^∇^)」
果たしてこれはデートなのか?知らんわ。まあいい。と思いながら高速バスで帰路に着いた。
そして2週間後、私はまた田村氏とメールしていた。
私「山小屋の反省会に呼ばれた(嬉)!呼ばれたってことは反省して、また来年の夏も登ってこいってことだよね。もうぜったい来年は呼ばれないと思ってたのに」
田村「Why not? がんばってたじゃん」
英語をちょくちょく挟んでくる。
この辺で悟った。英語をちょくちょく挟んでくる男子との会話は私には無理だった。爆笑を隠すのが大変だった。これだからICU【国際基督教大学】は。これだから帰国子女は。これだから英会話は。これだから郷ひろみは。いや、ルー大柴か。
その流れで「山でがんばってるあっこちゃん見てから、ずっと気になってて・・・」
「好きです。because・・・」
と言ってきたが、
私は込み上げてくる笑いを隠すのに苦労していた。
好きだと言い始めた理由は、私が彼の住んでるハイソな世界にいない(ボンビーガール)タイプだったから、新鮮に見えたんだろう。パントマイムのチケットを、自分で払うというだけで好きになるなら、そんな女の子はたくさんいる。(けっ)
彼は彼で、英会話を標準装備とする私大高偏差値社交性高めテニサー海外留学集団(当時ウェイという分類はまだ誕生してなかった)の中で、
同様のスペックを持つポニテのチアガール短期留学先ユニバーシティのパーカー着てる系女子とよろしくやってくれよな、と思った。【※偏見のかたまり】
後からわかったことだが、田村はやはり、日常生活で関わった女の子ひとりひとりに愛を告白しているらしかった。とても律儀で博愛精神に満ちた性格なんだ。皆も応援してやってくれよな。
🗻🗻🗻
そのしばらく後、富士吉田で開かれる反省会へと向かった。東京住みのバイト仲間とは、新宿駅西口バスターミナルで待ち合わせしていた。
そこまでがまず遠かった。
当時「陸の孤島」と呼ばれていたつくば。東京へ行くには、常磐自動車道を南下するバスしか交通手段がなかった。渋滞に巻き込まれることも多く、時間が読めなかった。その日もやっとの思いで東京駅に着き、山手線で新宿へ急いでいた。
既に待ち合わせ場所にいる、もえちゃんにメールする。「マジごめん、遅れる!!!」
すると体育会系のもえちゃんから、とんでもない返信が来た。
「大丈夫★あっこちゃん来るまで、バスの前で体張って停めとくから★」もえちゃんからのメールにはどんな内容でも必ず★が付いていた。たくましいもえちゃんの心意気に感謝した。
続けて来たメールに、
「ごめんバスを止めようとしたけど、ダメだって★無理だった。いっちゃったよ★」
本当にバスを止めようと!!!え?!?!?!そんなことまでやらせてごめん!!!
一緒にいた紗理奈(つくばの後輩)は、「あっこちゃん。もえちゃんを待たせてるから・・・ここはもう裸足で走るしかないでしょう」と、山手線の中で、おもむろにパンプスを脱いで手に握りしめた。【ヤバい皆 普通の人のフリした変態だ・・・】
私はスニーカーだったので脱がなかったが、紗理奈は小綺麗な格好をしているにも関わらず、裸足で新宿駅を走り抜けた。
謝りながらターミナルに着くと、もえちゃんが、次のバスまで時間ある、と言う。すぐそばのリンガーハットでご飯を食べた。調子に乗って長崎ちゃんぽん+薄皮餃子5個ランチを頼んだら、食べきれなかった。紗理奈が「山では食糧は貴重だから、残すならあたしが食べる!」と残りを食べてくれた。(ここは山ではないけどな)
2時間後、河口湖駅でバスを降りると、ひと足先に着いていた山小屋のメンバーが、駅前の「ほうとう不動」で、私たちの分まで注文して待っていてくれた。ほうとうは一人前で二人分くらい入っていた。
そこでも紗理奈は「山では食糧が貴重だから」とつぶやくので、全て食べざるを得なかった。
反省会が始まる前にお腹が破裂しそうだった。
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