あやふや国のあやふやな味のアイス 5話 ジャリジャリ飴を噛むペニンシュラ
※今回はアイスじゃなくてケーキです。
寒波が襲来したクリスマス目前の金曜日のこと。外灘の半島酒店(ペニンシュラホテル)で、中学の同級生Sと食事した。
私は上海でほそぼそ働いていて、Sは香港でバリバリ働いていた28歳の冬だった。上海へは出張で時々来るんだそうだ。
上海の新宿・南京東路で落ち合って「久しぶり」「15年振りだね」と言い合いながら、賑やかな通りを行ったり来たり、どこで晩御飯にするか迷って、たどり着いたのが、外灘の最北端にあるペニンシュラホテルだった。
香港ど真ん中に住んでる人をわざわざ上海でペニンシュラに連れてくるのもどうかと思うが、
それだけではなく、
私の気の利かなさ加減は留まるところを知らなかった。
テーブルにつくなりSは言った。「あのさ、俺今日誕生日なんだわ」
私「えっそうなの、おめでとう!」
S(はぁーとため息をついて)「久し振りに会うんだから、俺のfacebookくらいチェックしておいてくれよ」
私 えっ?!?!(なんで彼氏でもなければ好きでもない相手のfacebookチェックせなあかんねんキモ)
(うーん、でも、社会人として経験があるSが言うのだから、世間ではみんな、久し振りに会う友達の誕生日はfacebookでチェックして、サプライズやらプレゼントやらするもんなのだろうか。ウェイはそういう習慣があるのか?)
私は五千円越え当たり前のメニューから比較的安価なボロネーゼパスタを注文し、Sはクラブハウスサンドとコーヒーを頼んだ。高級ホテルでこんな食いにくそうなもん頼む人初めてみた。でも、おいしそうだった。デザートも食べなよ、と促されて頼んだ。
ケーキにはシュクレフィレというのだろうか、糸のように細い飴の細工が付いていた。
わーい✨✨
私はおもむろにその飴を口に入れた。
間髪入れず彼がツッコむ。
S「そういうのは食べないで残すもんだよ、飾りなんだからさ。あっこさん」
私「うっ・・・(育ちの違い?にもう無理となって嗚咽する音)ジャクジャク(飴を噛む音)」
S「あとさ、今日待ち合わせの時に5分遅れたよね。」
私「うへえ。ごめんなさい」
S「おそらくさ、貴女腕時計してないよね。時間にルーズなんじゃあない?普段から」
私「へえ」
S「さっき言ってた仕事での悩みも、感情論に走らないで、ひとつひとつをふせんに書いて、デスクに貼ってみて、整理していけばよくなるよ」と、ふせんをずらりとならべはじめて、なぜか私のカウンセリングが始まった。
私「へぇ(>_<)(もはや感嘆のへえ!ではなく、助さん角さんが相槌で使うへえである)」
食事はもちろん、スマートにカードを差し出したSのおごりだった。高級ホテルで、英語で店員を呼ぶのにすごく慣れていた。(私は中国語の方がまだイケた※ただし安食堂に限る)
釈放後、同級生にダメ出しされ悔しくなった私は、わなぷるしながら最寄りのSwatch店舗に立ち寄り、値段を見ないで一番可愛い腕時計を購入し、左腕に巻いて意気揚々と帰った。
これで明日からデキる女とやらになれるはずだ。
おもしろくない気持ちで別れたはずなのだが、こりないもので、独身で心が暇だったからか、反日デモ真っ最中で日本人仲間がいるとなんとなく安心できたからか・・・。
また会って食事したりもしたが、
相変わらず隙だらけの気の利かないわたしと、
そういうタイプがぜったい嫌いなのに香港からわざわざ説教しに来るSという謎の構図が出来上がっていた。
ちなみに時計は一週間で無くした。