星月夜
1月4日。初レッスンを終えバタバタと長机を畳んだりしていると、あっという間にあたりは墨汁を撒いたような暗闇に包まれる。絵画教室のアシスタントの男の子が、ふと雑巾がけの手を止めた。
「あのー先生、紅白観ましたか?」「観たよ」
「なんかすごく変わった人いたんだけど、なんか、赤い袈裟みたいの着て歌ってた人…名前なんだったっけ…ふじい…ふじい…」「「ふじい かぜ」」
声がダブった。「あの人、死ぬのがいいわ、みたいなこと歌ってて印象的だったー」「www」
で、その場でググったら、風さん、ピアノとかめちゃくちゃうまいのね。でかい手でいいよね〜
とか話しながら階段を降り、
教室の雨戸を締めて、鍵をかける。
玄関を出てすぐ横の自販機で缶コーヒーを買う。受け取り口から缶をふたつ拾い、頭を上げると、その日もしんとした群青の空には、金色の月と星が瞬いていた。