段ボールの家
家賃35000円で2Kの部屋に住んでいる。いくらこの街が郊外だといっても、破格の家賃だ。
ボロボロの木造で、網戸は外れ、風の吹く日は屋根が飛ぶんじゃないかと心配になる築60年のアパートだ。
わたしはその部屋で、人知れず 夢の家を作っている。
段ボールを切り出して、ボンドで組み立て、大きな天窓や、瓦屋根、階段や踊り場を作る。ウィリアムモリスの壁紙も、ローラアシュレイのベッドカバーも、猫脚のバスタブも、夢の家では、思いのままに手に入る。
絵画教室で、近所のこどもたちもいっしょに作ることもある。
美大卒のお姉さんといっしょに家を作った時は、シャンデリアのスワロフスキービーズやお皿の絵付け、ソファの布に凝ったりして、もう笑いが止まらないくらい、楽しくなってしまった。
皆、目を輝かせて、自分のお城にツタを這わせ、郵便受けをしつらえ、花壇を作る。豪華ならいいってもんじゃないなと、とつぶやきながら、居心地のいい、小さくて不格好で、今にも倒れそうな家の佇まいに、夢中になる。
小さな段ボールの家を満足いくまで飾り立てて、アパートの壁に掛ける。誰も知らない、世界一素敵な家がここにある。