見出し画像

カウガールの憂鬱のための文章②

カウガール・ブルー


 せめてコーヒーにすべきだったんじゃないかな。
 ほら、古いディズニー映画でロバが飲んでる水みたいな色をしてたとしても、さ。

 君は片方の眉をひゅうっと上げて、肩をすくめてコーラを飲む。
 君のお母さんそっくりの、顔と仕草。

 君は目の前の、罪作りな食べ物にとりかかる。
 アップルパイのアイスクリーム添え。
 温められたアップルパイのとなりで、夢の残骸みたいにとろけるバニラアイス。

 赤と白のギンガムチェックのテーブルクロスの上に、お行儀悪く肘をついて食べる。
 ショートパンツから突き出した長い脚をぶらぶらさせて。

 さっきモールで買ってあげた安物のピンク色のカウボーイブーツは、君によく似合っている。
 いつまでもDr.Seussの本を読んでいる年じゃないよね。
 あと何年で、君は、僕と彼女の出会った年になるのかな。

「ママは元気よ。」
 君は聞かれもしないのに、言う。
 君は声までお母さんに似てきたね。

 僕たちはダイナーを後にする。
 僕は、僕の小さなレディーのために、脂染みたドアを押さえる。うやうやしく。


 僕たちが立ち去った18分のちに、店内ではマスタードとケチャップによる派手な銃撃戦が行われた。
 店主は鍋いっぱいのベイクドビーンズを犠牲にして、身を守った。
 その百年後には、太陽がプラスチックを劣化させて、全てを亡きものとし。
 何故だかギンガムチェックのテーブルクロスの上と下に残された物語だけが、スミソニアン博物館で埃を被った。

 君は知らないよね。
 したたり落ちるケチャップとマスタードを避けながら、テーブルの下で僕は彼女にキスしたんだ。
 ほんとに、夢みたいだったよ。

 愛してた。
 

いいなと思ったら応援しよう!