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ゴルフ練習場のアルバイトの話
今年は東京にもそれなり雪が降った。
雪が降ると思い出すのは、学生時代にやっていたゴルフの練習場(いわゆる打ちっぱなしってやつ)でのバイトしてたことだ。
ゴルフ・ボール・メモリー
主な仕事内容は閉店後の片付けと雑務で、具体的にはテーブルや灰皿を掃除したり、練習用のゴムで作られたティーが壊れてたら交換する。
各席ごとにゴムティーのS,M,Lサイズと三段階用意されているが、Lのような長いティーほど根本がポキッと折られがち(打ちっぱなしあるある)だ。
折られたティーはお客さんの手によって人気のなさそうな席の綺麗なティーと交換されていたりするので、人気のない席のティーが全部折れたLサイズだったりすることもある。
屋根の設計上、雨に濡れやすい席のティーはいつの間にかバキバキに乾燥して干からびたミイラみたいになってる場合もある。こいつも交換だ。
たまにゴルフボールを使い切らずに帰るお客さんもいるので、その残されたボールはレンタルマシンに戻す。
レンタルマシンは巨大で、起動すると「ガゴンガゴーン!ゴロローンゴロン!」と機械音とゴルフボールが大きな音を立てて稼働する。
この迫力が魅力のマシンだ。
残されたボールが少量だった場合は、ボールをレンタルマシンに戻さず「君たちもゴルフボールに生まれたからには打たれたかったはずだ」と残されたゴルフボールに想いを馳せ、ネット際のカップめがけて出来る限りの遠投をしてボール達を弔う。
カップまではそれなりに距離があるので届くときもあれば、半分も届かな日もある。
それによって、その日の自分の肩のコンディションと投球への集中力を測る。
投球によるカップインをしたことがないのが今となっては心残りだ。
閉店時間になっても意外とお客さんは粘るので。すぐにはシャッターは閉めずに雑務をこなしながら最後のお客さんが打ち終えるのを待つ。
私の見た限りではお客さんは9.9割おじさんだった。
閉店間際でも粘って一球一球噛み締めるように打つおじさんは、やはり家に帰りたくない理由でもあったのだろうか。
または一球ごとに魂を込めて打ちっぱなしを最後までピュアに楽しんでいるのか、今となっては知る由も無いが。
お客さんが全員居なくなったら最後の仕事の球拾いが始まる。
芝生に降りたらネット際のゴルフボールを中央に向かって蹴り集める。
ネット周りのボールをすべて取り除いたらいよいよ本命登場。
ゴルフボール集めマシーンを手に取り、「私はただ、駆け抜けるのみ!」と心の中で叫ぶことによりアナベル・ガトーを呼び寄せ、ゴルフボールの群れに向かって突撃を繰り返します。
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真夜中の暗闇に照明で照らされた芝生をソロモン宙域と見立て、ゴルフボールを信念も持たぬ連邦軍のGMやボールに見立て、自らをソロモンの悪夢として疾走するのもいいでしょう。
ゴルフボールはまさにボールだし。
急にガンダムネタが出てきて、「うわー キモチわるう~~~」と感じた方もいるかもしれませんが、これはアルバイトが「この仕事が終われば帰れる!」としたバイト終了間際の謎に上がり続けるテンションと文章をリンクした表現をしているので大目に見てほしい。 ジーク・ジオン。
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こうしてスターダストメモリーごっこをしつつ、かき集めたゴルフボールを戻しては、また次の日おじさん達にゴルフボールを飛ばされる。
まるで石を積み上げては鬼に崩される、賽の河原のような作業が主な業務。
上記を全部含めて約1時間半くらいで終わる。
時給900円(より低かったかも)で、週6日働くので一ヶ月で約3万ちょっとの給料だった。学生にしてはそれなりのおこずかいだと思う。
ちなみにこのバイトは同年代の少年と二人で手分けして作業するのだが、店長はキレる時はブチギレるタイプの大人だったのでサボり癖のある少年達はことごとく修正されていた。
ある日、テーブルの拭き掃除が雑だった少年は、その仕事の様子を監視カメラで店長に見られていていた。
すぐにその少年は店長に呼び出され、首の後ろを掴まれて逃げられなくなった状態にし、さっきまでテーブル掃除に使っていた雑巾を少年の顔面に向かってゴシゴシと擦りつけながら「この雑巾は汚くねぇよな~!? ちゃんと掃除してないからヨォ!」と北斗の拳に出てくるモヒカンばりのセリフを放っていた。
たった20秒くらいの出来事だったが、少年は手足をバタバタしてもがき、大人が本気のブチギレていたあの光景は今も、そしてこれからも忘れることは無いだろう。
そんなこともあったりして相方を務める少年達はドラマ「相棒」で例えれば私が右京さんポジションで、寺脇、及川、成宮、反町のように3、4ヶ月ペースで入れ替わっていく。
そして月日は流れて、学校の卒業を機に私も就職をするため、このゴルフ練習場を辞めることを店長に伝えたら「わかった。でも、お前の代わりは自分で探してこい」とのこと。
その時はたまたま条件に合う知り合いを見つけられたけど、今思うと結構な難題だと思う。
そんなバイト最後の冬の夜に雪が降った。
たまたま休日だった次の日の朝、店長から電話がきた「雪かきするぞ」と。
雪の残る悪路の中、行ってみたらそこにいるのは私と店長の二人だけ。
当時の私の相棒(反町)は「電話にすらでねぇ」とのこと。
反町くんはなにかを察したんでしょうねぇ~。(右京さん風)
そこから3時間くらいかけて練習場の雪を取り除く。
マッチョorガリで分ければ、間違いなくガリに分類される私にはけっこうな重労働だったが普段のバイトでは夜の暗い練習場しか入ったことが無かったので、足跡のない真っ白い雪で覆われた明るい練習場は新鮮で楽しかった。
除雪作業が終わり、店長から店内の自販機で買ったホットコーヒーの差し入れをいただく。
店長は顔面雑巾の刑のような厳しい面もあれば、こういった優しい面も時折みせてくるツンデレだ。 あまりにもツンがすぎるが。
二人で席に座ってコーヒーを飲みつつ、雪がなくなったいつもの緑の芝生を眺めながら店長が私に話しかける
「おめぇはよぉ~ たぶん就職しても大丈夫だよなぁ~
特に仕事ができるってわけじゃねぇけど、根性があるからよぉ~」
なんと、お墨付きをいただきました。
半分以上は恐怖政治によって真面目にやらされていたのもあるが、1時間半を怖い大人の下で働くっていうのはスリルがあったし、自分も含めて若い子にありがちな仕事に対するヌルい意識に渇を入れてもらえて勉強になった。
あの空間では若いからはいいわけにならず、働いてお金をもらう立場になったからにはダメなもんはダメって世界であり、学生でも社会人と同等に扱ってもらえた気がした。
今では経験してよかったバイトの一つだ。
さすがに今の時代に新入社員の子に顔面雑巾アタックはできないけど、私も会社ではダメなもんはダメって感じで仕事を教えたりする。
たぶん、あんまりいい先輩だとは思われてなさそう。
ちなみに現在は私がバイトしていたゴルフ練習場は無くなっていて、どでかいスーパーマーケットになっている。
いつか客として打ちっぱなしをしてみたかったが残念だ。
いつまでも あると思うな 親と金と練習場。
まぁ就職した会社は1年半くらいでやめちゃうんだけどね。
完
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