見出し画像

会社組織の中にいる自分の存在を肯定・腹落ちさせる本(「組織デザイン」を読んだ感想)

※本ページにはAmazonアソシエイトリンク(広告リンク)を含みます

私は30代後半の係長級の会社員だ。そんな私が、組織とは何かをもっと体系的に知りたいと思って、日経文庫の「組織デザイン」(沼上幹 著)を読んだ。
この本では組織の様々な形や、組織形態による向き不向きが淡々と語られる。「こういうときはこういう組織がいい!」というような、ストーリー性のあるケーススタディではなく、体系的に、「なぜ組織が必要で、組織では何ができるのか」「組織での上下の関係(ヒエラルキー)はどういう意味を持つのか」というような、ある意味、講義のような本だった。
しかしこれが、会社員として仕事をする私にとって、自分の存在を肯定してくれるような、日々感じる、組織へ感じる難しさを腹落ちさてくれるような、そんな本だった。結果として、読後に精神的に楽になり、仕事へも前向きに取り組むことができるようになるという、思いがけない効果があったので紹介したい。

私は気持ちよく仕事ができていなかった。

私はいくつかの役割がある。

  • チームリーダーとして、ソフトウェア開発プロジェクトを推進する

  • 部下を持つ上司として、部下の育成に責任を持つ

  • 特定技術の有識者、開発経験者として、他チームへのアドバイスをしたり相談に乗ったりする

上記の役割のうち、すべてが上手く行っていると感じることはほとんどない。どこかがうまく行っていても、どこかの進捗は遅れている。自分で実行すること、上司へ依頼すること、配下メンバへ指示することの線引きが難しく、悩みながら振り分けた結果、また自分に返ってくることが多い。リーダーや上司として、配下メンバ・部下で対処できないことに対しては、自身で考え、決断をし、関係者へ依頼し、解決を図る。この「対処できないこと」は当初計画にないものであり、発生すれば計画外に自身の時間が使われたような形となり自身の実行タスクが圧迫される。また、この計画外のことは、計画できていなかった自分の計画が悪いのであり、それを言い訳にできないような感覚を感じていた。
最終的には、なんとか仕事をやり切る、うまくいかないかないことばかりに感じられ、気持ち良く仕事ができているとは思えない状況が続いていた。
そんな中、本書から得られた以下の2つの気づきから、組織の中の自身を肯定できるようになったので紹介する。

気付き1:ヒエラルキーは例外処理のためにある

組織の構造で一般的なのはヒエラルキー的な構造である。上司と部下、リーダーとメンバーのような関係。それが積み重なって、ピラミッドのような構造(ヒエラルキー)を作る。それまでの私の感覚は、ざっくりと「上位者は下位者を指示、監督し、うまく仕事を回す」だった。もちろんこの考えは間違ってはいないが、この本の中に、より、自分の経験にしっくりくる表現があった。「上位者は下位者で解決できない例外に対処する役割」ということ。
私は、配下メンバでは解決できない相談事やその対応に日々奔走している感覚があった。しかも、発生しなければラッキー、発生すれば計画にないタスク増となり、精神的に辛い(その気持ちは外には見せず、笑顔で対処はする)。
しかし、組織デザインは配下メンバで対応できない例外に対処することが、上位者の仕事である(そのためのヒエラルキー構造)と述べられる。そして、その発生をコントロールするために、マニュアルや標準を整理したり、人を教育する必要がある。つまり、例外は単に運が悪く発生してしまうという認識ではなく、それを対処するのが上位者の本分であり、自身の仕事の成果を図る指標でもあるということだ。
このことに気付いていからは、例外への対処事態を後ろ向きに思うこともなくなった。
例外へ対処後、マニュアル化したり、教育したりして配下メンバでも対処できるようにするのが良いのか、発生頻度と労力から考えて、自身(上位者)が都度対処したほうが良いのかという考え方ができるようになった。そして、例外が発生するなら、それを自身のタスクとして前もって構えておくという心持ちもできたし、例外対処も自分の仕事の本分だと言い切ることができるようになった。

気付き2:何事もトレードオフであるから正解はないし、自分の決断を貶めなくていい

何事もトレードオフなのは言うまでのない。ただ、この本では組織の構造もそうである点を明確に言語化されているので、より腹落ちした。この本では、「〇〇型組織は△△なメリットがあるが、✕✕なデメリットもある」ということを、淡々と説明される。普通に考えたら△△も✕✕も両方達成できるのが理想だが、それはトレードオフということが語られる。(例:意思決定のスピード vs 一人の上司が対応しなければいけない部下(例外)の数、成果物のスピートと個人の成長など)
私はプロジェクトの実行リーダーという立場を持つが、プロジェクトの実行体制も組織の一つと考えることができる。プロジェクト完了後の反省会で「違う体制でやればよかった。そうすれば〇〇の納期遅れは回避できた」というような改善意見がチームメンバ、もしくは自ら常に出てきて、プロジェクトがうまく行ったという感覚が持てないことが多かった。仮に、プロジェクト全体のQCDの目標値を達成していたとしてもである。
しかし、逆の考え方で、「今回この体制で行ったから、この部分の品質が高く担保でき、手戻りが発生しなかった」ということもできたのに、そういう捉え方をできなかった。
もちろん反省は大切で、次回に活かせるものは活かすべきだが、様々なトレードオフの状況の中で、計画し、修正しながら実行した事自体を貶さなくて良い。
他の例として、ある業務のマニュアル化ができていないので、配下メンバに仕事が任せられない、という事象は”悪いこと”に感じる。事実、そのような業務があるゆえに自分の時間がなくなっていることに、仕事の量的な辛さや、そのような状況を許容していることに、組織に対しての精神的な罪悪感を感じていた。結果としては何も問題も起きていないとしても、自身が悪いと感じるのである。
しかし、「マニュアル化のコストがどのくらいかかるのか」「マニュアル化して長期間使えるような変動の少ない業務か」「人に任せた結果、例外は多数発生し、パンクする結果にならないか」を考えた結果、自身で実行することを判断したら、組織に対して悪いことではない。そう考えると、自身のやったことも決して悪くない、罪悪感を感じる必要は無いと思えるようになった。


仕事の方法論やマインド論ではないからこそ納得感があった。

「組織デザイン」の帯には「生産性の高い組織はこうしてつくる!」と大きく書かれているが、私はこの本から別のことを読み取り、納得し、そして気持ちが楽になるという、今まで経験のないことが起きたので記事にしてみた。
自分の境遇を抜きにして、もう少しこの本をフラットで見るならば、「組織」「ヒエラルキー」を体系的、複数の視点から理解を深めるのに役立つ本だ。

  • この本のタイトル通り、組織をデザインする立場の人にとっては、本書の考え方を参考に、外部環境、自組織の目的と戦略、内部の人員構成から自組織をデザインするのに役立つだろう

  • 会社員生活を数年経験した人〜中間管理職であれば、自身が感じている会社組織に対する不満や、先輩・上司から聞く「会社というものは〜」という言葉を咀嚼する助けとなり、自身がより上位の管理者の目線を得られるだろう

  • 新入社員はまだ読まなくていいかも。

こういう真面目な本を読むことは少ないのだが、読んで良かったと素直に思える本だった。また、立場が変わればまた違う発見がありそうで、少し時間を置いて再読したい。




いいなと思ったら応援しよう!