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シンガポール特許の発明の名称が中国語表記?!
シンガポール知的財産庁(IPOS)のデータベース「IPOS Digital Hub」を利用して同国の特許調査を行っている方への情報提供です。
2024年10月に開催された日本知的財産協会(JIPA)のASEAN特許調査セミナーでも紹介しましたが、シンガポール知的財産庁が発行する特許案件のうち、約20%の案件にはIPC(特許国際分類)が全く付与されていません。以下のグラフは、2005年~2024年の各年に出願された案件数を棒グラフで示し、各バー内をIPCが付与されている件数別に色分け表示したものです。一番下の青色バー部分が、IPCが付与されていない件数を示しています。
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ASEAN主要6か国(ASEAN6)の中でも、インドネシア・タイ・ベトナムでは特許文書が各国の言語で記載されており、日本人にとってキーワード検索による特許調査は非常に困難です。このような場合に役立つのが、特許国際分類(IPC)です。IPCを用いることで、特許文書の言語に関係なく、関連する技術分野の特許を特定しやすくなります。
しかし、シンガポールにおいてはグラフで示したように、IPCが付与されていない案件が20%も存在しており、IPC検索のみではこれらの特許を見落とす可能性があります。シンガポール特許の明細書は英語で記載されているため、IPC検索に加えて英語のキーワード検索を併用することで、より網羅的な特許調査が可能であると、セミナーでは推奨していました。
ところが、最近の特許データを検索したところ、こんな現象が確認されました。
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シンガポール知的財産庁が運営するデータベースでありながら、発行された特許の発明の名称が中国語で記載されている案件が見受けられます。詳細に調査したところ、2024年3月以降に出願された案件から、中国語で記載された発明名称の特許が現れている傾向が確認されました。表は2025年2月初めに調査したものであり、新たな案件が公開されるに伴って、件数が増加する可能性があります。
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このように、
・ 約20%の案件にIPCが付与されていない
・ 発明の名称が中国語で記載されている案件が増えている
という二つの要因が重なり、日本語と英語以外の言語に精通していない一般の特許調査者にとって、網羅性の高い特許検索が一層困難になっている状況です。
現時点では、この問題に対する具体的な対策や推奨策を確立できていませんが、まずは注意喚起としてお知らせいたします。今後の特許調査において、シンガポール特許の検索精度向上のための適切な対応策を検討する必要があります。
アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘