【起業家のリアル】事業承継とOEM脱却で新市場開拓 その道のりを聞く-前編
「起業家のリアル」は起業、事業承継、経営のリアルに迫る対話型トークセッションです。
今回は、有限会社畑中義和商店より、代表取締役社長の藤原尚嗣さんをゲストに迎え、プロジェクトのフェイズ表と藤原さんの気持ちの浮き沈み、売り上げの推移を表した「心の折れ線グラフ」を用いながら、表向きなきれいな成果だけでなく挑戦と苦悩にも迫っていきたいと思います。
SASI DESIGN
株式会社SASIDESIGNは企業のアイデンティティを共に考え、経営からデザイン販路開拓までをサポートすることで地方創生に貢献するデザイン会社です。
Phase0
入社前の藤原さん
-プロジェクトの話を振り返る前に、藤原さん自身のことをいくつか伺いたいんですが、藤原さんっておいくつでしたっけ?
藤原「今29歳ですね。」
近藤「で、畑中義和商店に入社してどれくらいですか?」
藤原「今年で四年になりますね。」
近藤「その前ってどういうことをされてたんですか?」
藤原「大学を卒業し、東京のとある化粧品メーカーに就職しました。入社当時中国人のインバウンドがピークでmade in japanの商品は飛ぶように売れていたんですが、大学で化学を専攻していたこもあり、扱っていた商品のクオリティに少し疑問を覚えたんですね。以前からつやの玉の存在は、先代の社長と祖母がいとこだったこともあって知っていたんですが、その時につやの玉のことを思い出して、「あれだったら本当のmade in japanで、胸を張って売れるな」と思い出したんです。」
-それで転職されたんですか?
藤原「いえ、最初は卸売のような形で扱おうと思って、すぐに電話したんですが、その電話で先代が体調不良で後継者もいないので三ヶ月後に事業をたたむ予定だと言われたんです。その時直感が働いて…その場で退職を決意して、継がせてくれとお願いしました。」
近藤「驚きの行動力ですね。それがいつごろですか?」
藤原「六年前なので2014年ですね。なんですけど、その頃先代は治療に専念していたので、その間つやの玉の売り上げを上げるためにどんな経験を積むべきか考えて、人材紹介会社へ転職しました。」
-それはどういう狙いだったんですか?
藤原「とにかく物を売る能力を磨きたかったんです。よりハードルが高い無形商材でかつ、たくさんの業界に営業をかけられると思って人材紹介会社を選びました。畑中義和商店でもお付き合いにつながりそうなところに特に営業をかけてましたね。」
-大学では化学を専攻していたとおっしゃっていたので、理詰でいくのかと思っていましたが、直感にも従いながら戦略的にキャリアを積んでいたのがすごく印象的ですね。
近藤「藤原さんはそのあたりのバランスをとるのが非常に上手ですね。まさに考えながら走ることができるタイプ。一方SASI DESIGNは一度立ち止まって何をやるのか、なんでやるのかをじっくり考えるでしょ。でもなかなか止まってくれないので当時は困りましたね。話を聞けば聞くほど、物もいい。だからこそいろいろヒアリングしていきました。」
-そうしてプロジェクトが始まっていったんですね。具体的に振り返っていく前に、そもそもつやの玉ってどういう商品なのか、藤原さんから紹介していただけますか?
Phase1 アイデンティティを抽出する
つやの玉ってどんな商品?
藤原「つやの玉は洗剤などを使わずに、お湯だけで洗顔できる元祖・洗顔用こんにゃくスポンジです。文字通り食べるこんにゃくだけで作った洗顔用のスポンジなんですが、つやの玉には三つの特徴がります。それは①世界最古のこんにゃくスポンジ②こだわりの原料③お肌に優しい「お湯だけで洗顔できる という点です。」
-①世界最古ということですが、いつから製造しているんですか?
藤原「畑中義和商店は明治20年に創業しました。実はこんにゃくスポンジ自体は日本だけでなく、アジアなどでも作られているのですが、世界で最初に洗顔用こんにゃくスポンジの製造・販売を始めたのが弊社です。」
-そんなに昔からあるんですね。②の原材料についてもお願いします。
藤原「つやの玉は原料にも拘っていて、純国産のこんにゃくいもから、わずか9%としか取れないこんにゃく粉を使用して製造しています。」
-なんでそんなに少ないんですか?
藤原「こんにゃくいもに含まれるグルコマンダンという成分が重要なのですが、中心に行けばいくほど多く含まれるので、わずか9%となっています。」
近藤「日本酒の大吟醸でも50%ですからね。すごく貴重なんですね。」
藤原「三つ目の特徴であるお湯だけ洗顔ですが、つやのたまはグルコマンダンというとても細かいこんにゃく繊維でできおり、水との親和性がとても高く、水の膜をはることによって摩擦係数を抑えて洗顔できます。またこんにゃく繊維の柔らかさと細かさも相まって、しっかり汚れが絡め取れるので力をかけずに洗顔することができます。」
-洗顔などを使わずにちゃんと汚れが落ちるんですか?
藤原「洗顔フォームとつやの玉とで洗顔後の状態を比較する実験を行ったのですが、落とせる汚れはほとんど同じという結果が得られました。また、つやの玉の方がより肌へ負担が少なく、キメが残っているのを確認することができました。」
-つやの玉は製造にとても手間と時間がかかっていると伺いました。
藤原「そうですね、130年前から引き継がれる伝統的な製法で今も生産しており、通年作ることはできず、冬の極寒期のみ、自然の力を借りて約二ヶ月かけて製造しています。
まず、一般的なこんにゃくをつくります。その後、四日以上かけて冷凍、解凍を繰り返します。実はこんにゃくのほとんどは水で出来ていて、冷凍、解凍を繰り返すことによってこんにゃく繊維だけが残り、スポンジ状になります。
次に日光に当たる屋外に並べ、日の力で漂白します。当然冬の時期なので雪が降ります。そうなったら朝から雪かきをして、大体表裏合わせて10日以上かけてしっかりと日光に当てて漂白していきます。」
近藤「この光景が昔から写真家にも人気で、この時期には人が多く集まるんですよね」
藤原「はい、今まで見たことがないような景色なので、写真家の方達からも絶景だと言っていただけますね。
次の工程が重要なのですが、漂白された商品を紐で吊るし、三日以上かけて表面だけを乾燥させます。通常、この工程では乾燥機を使う他社も多いのですが、つやの玉は真冬の乾燥した風をあて、じっくり乾燥させます。乾燥機に欠けた方がすぐ乾燥するんですが、熱を当てて急に乾燥させてしまうと、細かすぎる繊維を壊してしまって、水との親和性が悪くなったり、柔らかく戻りにくくなってしまうんです。なので手間はかかりますがつやの玉は真冬の乾燥した風だけで乾燥させています。」
-すごく手間がかかっているんですね
藤原「そうですね、乾燥だけで、一ヶ月半ほどかかりますが、手間隙かけて完全無添加で作られた、人に優しい商品を作っています。」
-どういうところで販売しているんですか?
藤原「新神戸駅直結の「兵庫県おみやげ発掘屋」さんですとか、赤ちゃんの肌洗い用にも使われていたので、多可町からの出産のお祝いとして、また山口県の大谷山荘という日本旅館の、最高クラスのお部屋のアメニティにも採用していただいています。
2018年にはむらおこし特産品コンテストで最優秀賞の経済産業大臣賞を受賞しました。」
目標は当初から熊野筆
近藤「今伺っていて思い出しましたが、当時から熊野筆をベンチマークしていましたよね。どういう風になりたいですか?と聞くと熊野筆みたいになりたいですっておっしゃってましたけど、あれはなんでだったんですか?」
藤原「やっぱり、化粧筆ってたくさんありますが、熊野筆ってきいたら「あ、あの一番ええやつな」ってなるじゃないですか。なのでまずこんにゃくスポンジ自体の知名度もまだまだ上げていかないといけないんですが、その中でもつやの玉って聞いたら「あ、あの一番ええつな」って思ってもらえるブランドにしたいんです。」
近藤「やっぱりこの辺がちょっと違うところで、自分のところだけ売れたらいいんじゃないんですよね。次のステップとして地域の風景も変えたいと思っていらっしゃる。当時は400軒ほどメーカーがあったのに、地域では畑中義和商店一社になってしまって。」
藤原「こんにゃくスポンジはもう地域資源じゃないと言われてしまうぐらい少なくなってしまったんですよね。」
近藤「それを昔のように戻したいということは、当時から言っていましたよね。そういう想いを今の人たちにどうやって伝えていくのかということをよく話していましたね。」
藤原さんはSASIをどう思っていた?
-今のお話は藤原さんとSASI DESIGNがお出逢いになってからのことだと思うんですけど、その当時藤原さんはSASI DESIGNのことをどう思っていたんですか?
藤原「まず、知ったきっかけは多可町の何かのデザインをされているのを拝見して、直感で感じるものがあって、商工会の担当の方にすぐに紹介してもらったのがきっかけでした。」
近藤「そういうきっかけで出会って、僕たちは一度しっかり考えるでしょ?でも藤原さんは走りながら考えるでしょ?多可町商工会の方からはよく「藤原さんは早くやりたがっている」っていうのはよく言われていて、それは分かってるけど、ちゃんと聴かないと中途半端なものができてしまうっていうのはよく話ましたね。」
Phase2 アイデアの創出
初期のパッケージアイデア
近藤「ここから実際パッケージを作っていくわけですが、最初は「上質さ」「透明感」「日本的」「瑞々しさ」といったキーワードを抽出し、表現すべきだと考えました。そのほかにも、そもそもつやの玉って知らない人が多いので、見えていた方がいいんだろうか…というようなことも考えていきました。」
藤原「実は二十年前ぐらいに一度流行って、今40代ぐらいの方にはそこそこ知名度もあるんですが、若い方は知らない方がほとんどですね。」
近藤「しかも、つやの玉って使う時はお湯でふやかして使うのですごく柔らかくなるんですけど、陳列している時は硬いんですよ。なので、パッケージでその柔らかさをどうやって表現するのかを考えていきましたね。」
-他にはどんなことを考えていったんですか?
近藤「使う時間帯やシーンも検討していきました。朝使うのか、夜使うのか。使うのはお風呂場で使うのかなどですね。」
藤原「この時一つ意見が分かれましたよね。」
-どういったことで意見が分かれたんですか?
藤原「つやの玉って、使った後に乾燥させないといけないので干すか冷蔵庫に入れないといけないんです。」
近藤「僕は、「それやる?」って思ってたんですよね。けど藤原さんはやりますって言い切っていて。あれなんですると思っていたんですか?」
藤原「当時近藤さんがおっしゃっていたように、美容にそこまで関心のない方からしたら手間に思えてしまうかもしれないということはよく理解できたんですが、僕がメインターゲットに思っていた「肌に悩みを抱えていらっしゃる方」や「美容への意識が高い方」からすると、乾燥させる手間を、手間だと思わないと考えていたんですよ。そこの手間まで含めて「つやの玉」なんで、そこは個人的にはぶれたくなかったんですよね。」
近藤「そういうセッションも重ねながら、パッケージを考えていって、例えば、これは言いながら違うなと思っていたんですけど、少し透けているようなパッケージにするのかとか…」
-これは何が違ったんですか?
近藤「このパッケージはプラスチック製になるんですが、自然のものを人工のもので包むのは少し違うなと思っていましたね。
ほかにもリアルの写真をプリントするのかとか、ジャブのように出していきましたね。それからこれは迷走している時のデザインなので初めて見せますけど…多可町の山をイメージしたりなんかして…全然かっこよくないんですけどね。」
近藤「それと、どういったメッセージをどのタイミングで見せるのかということも含めてデザインを詰めていきました。それから…やっぱりどうしても「ほんまに冷蔵庫入れるんか」というのがぬぐいきれなくて、いれるとしてもこの箱自体がソープディッシュのようになっていたらいいんじゃないかとこんなデザインも作っていきました。」
-この時藤原さんはどんなこと思っていたんですか?
藤原「ケースにするっていうのは単純にお金の問題があって、一個あたりの値段が上がってしまうんですよね。それまでつやの玉を購入いただいていたのはほとんどリピーターのお客様で、毎回ケースみたいなものがついてきて価格が上がるっていうのはお客様のためにはならないんじゃないかと考えていました。」
近藤「ユーザーがどういう風に使うんだろうかっていうのはセッションしていきましたね。僕は最初のユーザー体験ってすごく重要だと考えていました。一方で藤原さんはリピートを重視されていて…。あと、藤原さんはこういった金銭感覚がしっかりしているんですよね。」
後編に続く
前編では藤原さんがどのようなどのような経緯で畑中義和商店に入社したか、どのようにSASI DESIGNと出会い、初期のパッケージアイデアまでを振り返りました。
後編ではここからデザインが固まっていく様子や、藤原さんにとっての大きな苦悩のお話に迫っていきます。
こちらもお楽しみください。
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