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王道楽土と極楽浄土【名詞】paradise(ジョン・トーランド『大日本帝国の興亡』)

He, too, was determined to make Manchuria into a Buddhist paradise of five nationalities living in harmony, but he wanted to go much further; he dreamed of making Asia one great brotherhood, an Asia for the Asians. (p.247)
彼もまた、満州を5つの民族が平和に暮らす仏教徒の楽園にしようという決意を持っていたが、それにとどまらず、アジアをアジア人同胞のためのひとつの偉大な国家にすることをさえ夢見ていた。

John Toland / The Rising Sun (1970)

辻政信の理念を紹介した一文より。

いわゆる「王道楽土」を a Buddhist paradise と訳しているのが興味深い。

私も詳しくはないが、「王道」は儒教の概念だろう。

とはいえ「極楽浄土」ではより現実的ではなくなってしまうから、ここではあえて「仏教徒の楽園」と訳したが、もちろん満州国の国教が仏教だったわけではない。

著者はそのあたりのことを踏まえて、あえて分かりやすくキリスト教の天国と対比するために a Buddhist paradise としたのだろうか。

というように、日本の歴史について、外国人が外国人のために書いた英文の不自然さを説明するために、それをあえて和訳してみるのもおもしろい。

ちなみに原題の The Decline and Fall of Japanese Empireというタイトルは、ギボンのThe History of the Decline and Fall of the Roman Empire (『ローマ帝国衰亡史』)へのオマージュではないかと思うのだが、この本の邦題『大日本帝国の興亡』は誤訳だと思う(これがホントの「興亡も筆の誤り」)。

大日本帝国が興るところは書かれてないから。あるいはメインタイトルの Risingをタイトル織り込んだのだろうか。


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