
ジャパネスクとシノワズリ(ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』)
サイバーパンク小説の金字塔。
この小説には造語がやたら出てくる。
知らない英単語は調べるけど、造語らしきものはあえて調べないようにしている。
名作だから、ググれば解説してくれるサイトはいくらでもあるだろうけど、読んでいればそのうち分かるだろうし、半分は雰囲気みたいなものだから、分からなくても困りはしない。
console man とか cyberspace cowboy はハッカーのようなものだろうし、fletcher は針を打ち出す銃、cobra は伸縮式のムチとこん棒の合の子のようなものだろう(注1)。
逆に発表当時(1984年)にこの小説を読んでいた西洋人は、sarariman(注2)や sanpaku(三白眼)、 Chatsubo(注3)(茶壺、カフェの名前)をなんだと思っていたのだろう。やはり気分で読んでいたのではないか。
それはともかく気になったのは Yeheyuan filter 。タバコの銘柄らしいが、Yeheyuanとは何のことなのか。
固有名詞は調べるようにしているのでググってみると、トップにYeheyuan というタバコのパッケージの画像が出てきたのでおどろいた。本当にあるの?
と思ったら、どうやらアート作品らしい。小説に登場する小物やガジェットを実際に作ろうという人がいるくらい、愛されている作品なのだ。
Yeheyuan とは、世界遺産にもなっている北京の庭園「頤和園」Yiheyuan のことだろう。ピンインの綴りが違うのは、著者が間違えたのかもじったのか。
そして、なぜ近未来の Chiba City で主人公が中国のタバコを吸っているのか。
実は頤和園を日本語だと勘違いしていたのではないか。そうだとすると、それはそれで味わい深い。
注1. この記事を書きながら気がついたが、寺沢武一『コブラ』(1978)には「短針銃」という武器が登場する。偶然だろうか。
注2. ウィリアム・ギブスンは「サラリーマン」が和製英語 salary man だということを知らなかったのだろうか。そうだとすると、この「サラリマン」という言葉も味わい深い。
注3. 作中ではしばしば Chat と呼ばれている。Chatsubo を Chat - subo に分割する、という発想は、日本人にはなかなか思いつかない。これも周到に考えた演出なのか無知ゆえの天然なのか、判断がつかない。