叙事詩と抒情詩【日本語】レキシの作詞
ふとコンビニに貼ってあるライブのポスターを見たら、デビュー20周年だという。
はじめて見るバンド名だ。
最近、こういう事がよくある。
昔、好きなバンドのデビュー10周年の時に、お祭り騒ぎをしていたのが、夢のようだ。
特にファンでないバンドでも、10年も続いていれば、何かしら耳にしたり目にしたりしていたと思う。
時間の流れ方が変わったのか、いろんなものへの関心が薄れたのか、情報や娯楽が多すぎるのか。
たぶんその全部だ。
前置きが長くなったが、このレキシというプロジェクト、たまたま昨日、サブスクのレコメで知った。
昔は中村一義のアルバムを発売日に買ったりしていたものだが、その後、華流ポップスやデスメタル、K-POPへと流れていき、J-POPからはしばらく離れていたので、同じ100Sの関係者で〇年代からこんなおもしろいことをしている人がいるなんて、ぜんぜん知らなかった。
まずJ-POPで歴史を歌う、つまり叙事詩を歌うのがめずらしい。
日本のポップスの歌詞の主語はたいてい一人称だ。個人の心情や経験、思想が歌われる。つまり多くは抒情詩だ。
人間椅子なんかは古典文学を題材にしいてたりするが、これは自然発生的なものというより、海外メタルの影響だと思う。
そう、ブラック・サバスやアイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、なんでもいいが、メタルバンドの歌詞の多くは、SFや神話、ファンタジー、歴史などを題材にした叙事詩だ。
以前取り上げたメイデンのこの曲などは、その典型だ(異端かもしれないが)。
洋楽を聴き始めたころは、「何が楽しくてこんなことを歌ってんだろう?」と思っていたものだが、そのうちに慣れた。
そのうち逆に、「なんで日本のポップスには物語詩がないんだろう?」と物足りなく思うようになった。いつまでも愛だの恋だのと歌っていても、ネタも尽きるだろうし、本人も飽きるだろうに、と。
ところがこのレキシ、いまさらかもだが、すべて、文字通りすべての曲が、歴史を題材にしている。
曲も詩もクオリティが高すぎて、もはやウケ狙いなのかどうかさえよくわからないが、どれもこれも詞がおもしろい。
しかし、これは本当に全部、叙事詩なのだろうか?
それぞれ縄文文化から弥生文化への移行、鳥獣戯画、紫式部をテーマにしており、それにまつわる事物を散りばめた歌詞ではあるが、ベースはどれも、言わばベタな日本のポップスの歌詞だ。
実は日本史をコンセプトにしていることをエクスキューズにして、今やそのままでは成立しがたい(こっ恥ずかしい、ダサいと思われがちな)ベタな日本の抒情詩を復活させているのであり、リスナーもその同じエクスキューズのもとに、ベタな歌詞を楽しんでいるのではないか。
少なくとも私はそうだ。
ベタってセンスいいとは思われないけど、わかりやすいし、気持ちいいんだもの。
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