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愛する者の死は慰めになりうるのか【フランス語】immense allègement(ソポクレス『オイディプス王』)

JOCASTE. - C'est un immense allègement pourtant que de savoir ton père dans la tombe.
OEDIPE. - Immense, je le sens. Mais la vivante ne m'en fait pas moins peur.
イオカステ でもお父様がお亡くなりになっていたとお聞きになって、たいそう安心されたことでしょう。
オイディプス もちろんだ。たが母が生きている以上、少しも安心などできないのだよ。

Sophocle / Oedipe roi

エディプス・コンプレックスの由来にもなったオイディプス王の物語より。

オイディプスは、父親のコリントス王ポリュポスが死んでいたと知って喜びながらも、母親がまだ生きていることが不安だという。

ご存じない方のために念のため説明すると、オイディプスは父母を憎んでいたわけでは決してない。

アポロンに予言された通りに、自ら母親を犯し父親を殺してしまうよりは、父も母も死んでくれていたほうがいい。亡くなっていたポリュポスが実の父ではなく養父だったことを、彼はまだ知らない。

大きい不幸よりは小さい不幸のほうがマシだし、加害者になるよりは被害者でいるほうがいい。

そしてこのことは、この作品でこれ以上言及されることはない。これから暴かれる、実現していた予言こそがこの物語の主題であり、とんでもない悲劇だからだ。

しかしそれは本当だろうか?

もしあなたがあなたの愛する人を殺してしまうことが事前に分かっていたとして、その直前にその人が別の要因で死んでしまったとしたら、immense allègement (大いなる慰め)になるのだろうか?





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