場を盛り上げる事が好きすぎて仕事になっちゃった元芸人モデレーターが語る「ウケるの本質」とは?
場を盛り上げる事が好きすぎて仕事になっちゃった元芸人モデレーターが語る「ウケるの本質」とは?
モデレーターとして、そしてShovellのインタビュアーとして活躍中のさしみこと藤澤恵太さん。さしみさんは「場を盛り上げたい」「ウケたい」と思い、モデレーターをやっているという。そのためには何が必要なのか。自らそれを分析し、そのコツを語る。
■場を盛り上げるためには何が必要か
今回は、場が盛り上がる「ウケる」ということと「スベる」ということの違いについてという、すごくニッチなテーマについてお話しさせていただければと思います。
私は落語や司会など舞台/ステージに上がる経験があり、今でもモデレーターやイベントのMCをやる機会もあって、場が「スベる」ときと「ウケる」ときのどちらをも体感しています。そこで、その差は何かということを整理してみたいと思うんです。
場が盛り上がっているという状態には3つの視点があります。
まず、出ている演者さんが盛り上がっていること、それと関係者が盛り上がっていること、そしてお客さんが盛り上がっているということです。この3つがそろっていると、場が盛り上がっているということが言えます。
具体的には声に出て笑いが起きたり、笑顔が出たり、うなずいたりというように場全体の共有感覚がしっかりと出来ていて、一体感が出ている時は盛り上がっているというふうに感じられます。
場が盛り上がっている、いわゆる「ウケる」という状態に対して「スベる」という状態は、一体感がなく、一方向に「こうだ」という押し付けをずっとしている状態とも言えます。第三者が理解できていない状態になってしまうと、確実にスベってしまいますね。
場が盛り上がるためには、演者、お客さんのほかに関係者も盛り上がることが必要です。私は場をファシリテートしているので、広くいうと演者になります。演者とお客さん、これが二対になります。そして場の設定側には、演者以外にもディレクター・プロデューサーという関係者がいます。
イベントなどでは、プロデューサーが意図している場になっていないと緊張空間が生まれ、演者のパフォーマンスが出てきません。プロデューサーがにらんでいる、メッセンジャーが「これは違うぞ」と伝えなければならない状態になると、彼ららしい振る舞いができなくなります。ですので関係者をちゃんと巻き込んでいかないと、結局ラポールがとれないということになります。
演者や私がその場で盛り上がっていても、後で「あれは違う」などと言われると、その場が盛り上がったことにはなりません。演者にはその恐怖心がどこかにあるので、「え、これ合ってる? さしみさん。めっちゃ睨んでますけど、これ言っていいの?笑」みたいな状態になると、思い切って演じることができないんです。
■緊張空間に着火する工程が楽しい
私は一度、「Cookie」という結構難しいテーマでイベントのモデレーターをやったことがあります。
これからはCookieの制度が変わり、マーケティング担当などもいろいろ変わらないといけないという話題でした。たぶん参加者もよく分からないし、登壇者も答えを持っているかどうか分からないというので、どうなることかと困っていたんです。しかも、WEBのCookieは専門領域です。
そこでまずは、参加者がどういうことを聞きたいかをチャットなどで吸い上げて、事前のアンケートを見ました。すると初心者が結構多かったので、最初は一番分かりやすい「Cookieって、お菓子っすか?」とか「セサミストリートで食べるやつですか?」とかいうボケから入り、「私は全然分からないので」といったんお客さんと私の認識を一緒にしたんです。そして登壇者の3人のうちの一番分かりやすく説明してくれる人に振って、「じゃあ、食べ物のクッキーと同じで、いろいろな種類と味があるんですね」などと言って、分かりやすいところから入りました。
そこから徐々に難しい話にしていったんですが、このようにステップを踏んで順番にやると、お客さんも分かりたいことが分かるし、登壇者も全員しゃべりたいことをしゃべれ、盛り上がることができました。お客さんからはチャットでどんどん質問が出てきましたし、「安心しました」みたいなコメントが増え、そのコメントの質もだんだん上がっていきました。
いきなり難しい話から入ると意味が分からなくてお客さんは離脱してしまうんですが、「食えるんすか?」というところから入っているので「何言ってもええやん」みたいな雰囲気になるんですね。
そして、演者のしゃべる役割が結構はっきりしてくると、「ここまで話していいんだ」ということが共有の認知が生まれ、しゃべる難易度もちょっとずつ上がっていきます。それに対して私が反応を示すと、参加者の声を代弁していることになるのでそれを軸に登壇者がしゃべってくれるようになってくるんです。「ここはちょっと分からないですけど、こうですか」「ああ、そうです」といったように。私が登壇者とお客さんを接合しているという感じですね。
このように、難しいテーマであればあるほど、私は活きるように思います。私はそうゆう意味で緊張空間が好きなのかも知れません。
緊張空間とは、学びや満足度がこわばりによって得られていない状況、ラポールがとれていない状況です。
私は盛り上がっている空間にはあまり興味がなく、緊張している空間に着火するその工程が好きなので、盛り上がってしまうとあまり出ていかないんです。登壇者たちがしゃべっていた方がよいですしね。盛り上がっているところに私が入っていったら、邪魔になりかねません。
■緊張と緩和があって場は盛り上がる。筋書をいかに崩すかが腕の見せ所
私は、話の落としどころを最初から考えるということは全くありません。ただし、脈略によってその場でそこへ誘導することはあります。「最後はこの人に振ったらいいんだろうな」とか、そういうことは見えてきます。
しかし、イベントや対談では、価値観の衝突や融合による爆発が大事だと思っています。ですが同時にそれは、緊張を生んでしまいます。場を盛り上げるためには、緊張と緩和が必要です。すごく緊張している場面が緩和されるとウケるということがよくあります。
例えば以前、多拠点で生活をしているアドレスホッパーの人と、一拠点だけで地域を限定して活動している人の対談がありました。
「一つの拠点にずっと居ても、飽きてきません?」と一方に振れば、「その場所に根付かないと、地方や地域の人は受け入れられません。その場所に居て、共に過ごすということがポイントじゃないんでしょうか」などと言って、応酬を始めます。
ちょっと想像すると、けんか腰みたいな対談になりそうなんですけれど、適度な緩和があって笑いがありました。緊張があったおかげで、緩和が場を盛り上げたんです。
このように、場を盛り上げるために必要なことは、本音を言ってもらうということです。浅いところで話していると、全然衝突が生まれません。
それと、モデレーターが中立であることが必要です。「絶対にあなたを守ります」ということを、どちらに対しても思うことが必要ですし、「僕が居る限り絶対に悪いようにはしないです」という安心感を与えることも大切ですね(笑)
また、私は最後は共通項で括って、「これが一緒だよね」と言って抽象度高く括ってあげることで、「この点とこの点は、一緒だったよね」と握手をさせるという手法をとっています。
物語でいうと、最初に問題提起をして、次にお互いの主張を戦わせる。最後は抽象的に括ってあげるという風にして、「互いに気付きがありましたよね」と終わると、互いに繋がりが生まれるんです。いきなり「一緒だね」と括っても、納得感もなければ、気を使って変な同調ばかりになってしまう。「俺ら一緒だよね。分かります、分かります」ってなってしまい、これでは場が盛り上がりません。
■盛り上がることは、クオリティーが上がること
私は基本的に、「盛り上げたい」と思ってモデレーターをやっています。盛り上げたいという行為は、禁止されてもやってしまうんです。
ストレングスファインダーでも、社交性、最上志向、包含という三つがあって、社交したいし、その場の最高のものをつくって、取り残さないようにやりたいという欲求が強いんですね。
そしてモデレーターのような役目は、日常的な会議や、キックオフミーティングなど、会社の中であっても、すごく大事なことだと思っています。
特にオンラインになってくると、言葉でしっかり感じ取って整理してまとめていくということが大事であり、これは必須能力になってくるのではないかと思います。特に、チームリーダーの人などには、これは大事な能力です。
会社では、イベントでいう演者がメンバーで、参加者が報告をされる側だと考えることができます。またマネジャー会議などでは、参加メンバーが演者、グループマネジャーが関係者だと考えることもできます。
「これはちゃんと趣旨が合っているか」を考える、意見を発しやすいようにファシリテートしていくと、会議の質が大きく変わってくると思います。重要なスキルですね。
人が交流したり話したりするような、何かの目的に集まった空間が盛り上がるということは、満足度が上がって、全員の当事者意識も上がっていくことなので、クオリティーは上がっていきます。
そんなに難しいことではなく、対話技術やコミュニケーション方法で変えられることが多くあると思うので、そういうお手伝いを私はしたいと思っています。会社や学校や社会のあらゆるシーンでも、言語・非言語をフルに使って、場を盛り上げられる。そんな人が増えるといいですね。