ごはん杖 #毎週ショートショートnote
「ねぇ、これなんて読むの?」
妹は、双子の兄に、読めない漢字の質問を投げかけた。別に、そこまで本気知りたいと思っているわけでもないのだが、とりあえず兄に聞くのが手っ取り早いという非常に打算的な発想だ。
「見せてご覧?」
兄は、天才の気があった。妹を含む、同級生たちと比べれば圧倒的に学力が高い。それに、自分はお兄ちゃんなんだという自負がある。妹からの質問に答えられないなどあってはならないのだ。漢検も既に準1級まで合格済。彼には、純然たる自信があった。
粀
「えっと、これは……」
少年の脳は一時停止した。見たことのない漢字だった。
「知らないならいいや」
「知ってるさ!」
もちろん嘘だ。
「これは、『ごはんづえ』だよ! ほら、『杖』って漢字と似てるだろ? 昔はね、お米を細長い袋に詰めて、杖にしてたのさ!」
兄の地位を守るため、持ち前の脳みそをフルに回転させた。
「ふぅん。変な読み方だね」
妹は納得した様子で、持っていた本に再び目を落とした。
よくよく読むと、注釈に真実が書いてあったのだが、一安心という顔をしている兄を見て、今は黙っておいてやろうと思った。
粀:デカメートル。一メートルの十倍のこと。現在は『籵』を用いる。
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たらはかにさんの以下の企画に参加しております。
ごはん杖、という言葉からもう全く何も想像つかなかったので、とりあえず『杖』に似た漢字とかからヒントを得ようとしたところ、まさにドンピシャ!な漢字を見つけてしまったので、これで一本書いてみました。毎ショは、こんなふうに自分では全く思いもよらない発想と出会えるのが楽しいですね!
ちなみに、この兄妹は実は別の作品でも登場しています。お気に入りの二人です。話の都合上、ちょっとだけ成長してもらいました。
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