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失恋墓地 #毎週ショートショートnote

『探さないでくれ』
 突拍子もないメッセージを受信したツバサはため息をついた。
「またか……どうせあそこだろうな」
 文句を口にしながら、大きなシャベルを手に家を出る。向かった先は墓場だ。

 ツバサは中に入り、立ち並ぶ墓石を一つ一つ確認しながら歩いた。
「坂口……坂谷……アキ。ここだな」
 探していた名前を見つけたツバサは、持ってきたシャベルで、墓石の前のまだ柔らかい地面を掘った。地面の下からは大きな木製の箱が出てくる。棺桶だ。土から掘り出した棺桶の蓋を、力任せに引き剥がす。中には少年が横たわっていた。アキだ。

「アキ! 起きろ!」
 棺桶の中のアキが、のそりと体を起こす。泣き腫れた顔に夕陽が射した。
「探すなっていっただろ……」
「探すに決まってんだろ! もう、失恋したくらいで毎回死ぬなよ」
「今度は本気だったんだ……」
「しょうがねぇよ。次がまたあるさ」

 そう言いながら、アキの手を取り引き上げる。後ろの墓石に刻まれた名前は、自然と消えていた。

「牛丼でも食って帰ろうぜ。おごるからさ」
「まじで? 大盛りにしても良い?」
 落ち着きを取り戻したアキが、軽口を叩く。
「いいわけねーだろ!」
 そう文句を言いながら、ツバサは少し嬉しそうだった。 

(501文字)

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 今週も、たらはかにさんの企画に参加しています。410字くらいになかなか収まらない!(笑)

 失恋墓地に入ったとしても、起こしに来てくれる友達がいたら幸せですね。

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「ところで、牛丼屋にシャベルって持って入っても大丈夫なの?」
「あっ……ダメかも……」


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