85.千本ツツジ峰の滴
標高1757mの七ッ石山と、標高1704mの千本ツツジ峰は、東京都奥多摩町と山梨県丹波山村の境界にあるトウゴクミツバツツジとヤマツツジが続く峰です。2021年5月23日5:30、標高735mの丹波山村の小袖乗越駐車場は既にほぼ満杯でした。駐車場から東京都・埼玉県・山梨県の県境で、東京都最高峰の標高2017mの雲取山を目指す登山者がほとんどです。アニメ『鬼滅の刃』の主人公の竈門炭治郎 は、大正時代にこの雲取山で生まれ育ったという設定で、話題になりました。
七ッ石山・千本ツツジ峰の山稜は、後期白亜紀付加体の混在岩でできています。この山を含む多摩川上流域の東京都奥多摩町、山梨県小菅村、丹波山村、甲州市にまたがる東西30.9km、南北19.5kmの5割の面積の250㎢の広大な山林は、東京都の水道水源林となっています。七ッ石山を経て雲取山に登る登山路は、麓に近い部分には民有地のスギ植林があり、その上はおおむね東京都が水道水源林として管理するクリーミズナラ群落、カラマツ植林です。
駐車場出発時は雨模様ですが、登り始めると晴れ間も見えてきます。スギ林の中に光が差し込み、霧の中に虹色のリングが現れました。林の中で見るブロッケン現象です。思わず息を呑みます。
麓近くは散っていますが、標高1300mあたりからは、トウゴクミツバツツジが咲いています。
雲取山への分岐と別れ、七ッ石小屋を経て、千本ツツジ峰への尾根路を進みます。山稜は霧が深いです。稜線の道幅は、広い防火帯になっています。その草地で、山菜を採っている人もいます。千本ツツジ峰は、おしゃれな案内板です。
通常は、葉が展開する前に開花しますが、千本ツツジ峰あたりは、その年の気候の影響か、展開した葉と蕾が一緒になっています。
トウゴクミツバツツジをよく見ると、霧によって、見事な滴が花を飾っています。
夢中で、大きな滴にピントを合わせて、マクロレンズのシャッターを切ります。
見上げると、花弁の表裏に滴がついています。
花弁全体が水っぽくて、つややかなのもあります。
少し場所を変えると、水滴が着いていない花もあります。北から霧が吹きこんで水滴を着け、尾根の南側の株にはいきわたらないのかもしれません。ひときわ雌しべ付け根の腺毛が鮮明に観察できます。
千本ツツジ峰から七ッ石への尾根の北側の、霧が深い場所は幻想的です。
山頂手前の巨石の傍らに、七ッ石神社が祀られています。
丹波山村が設けた、登山路にある平将門迷走ルートの10枚の案内板を順次見ながら、七ッ石から降りていきます。
雲取山と千本ツツジ峰への分岐までの間も、満開のトウゴクミツバツツジを愛でながら降りました。
標高1700m台の霧の中の滴は、気品あるトウゴクミツバツツジの見事な玉飾りでした。標高が高くて厳しい自然が、より花の精を煌めかせるのでしょう。