
14.デジタルジオラマで描く棚田
著者は、3名の実務家の協力を得ながら学生と、京都府福知山市の棚田百選に選ばれている毛原でフィールドワークを行い、1960年ごろまでの伝統的な地域自給の営みを調べて、これをもとに過去の景観をデジタルジオラマで再現しました。また、現在の景観とともに、住民に地域課題を聴いて、これを解決するための未来の景観の、デジタルジオラマをつくりました。2022年度、退職する前年度、理工学部の「専門ゼミナール」という学科・学年横断型のプロジェクト基盤型学習(PBL)の授業を担当したのです。

毛原は、2022年時点で、13戸、人口26名の、人口が往時の1/6に減った過疎地ですが、1990 年から棚田オーナー制など都市住民と交流する事業が行われてきました。転入者がいて、結婚式場併設のイタリアンレストランや小さな宿泊施設、地域内でつながるWi-Fi が完備しています。1996年の元普甲道の歴史の道百選、1999年の日本の棚田百選、2007年の丹後天橋立大江山国定公園、2008年の京都府選定文化的景観、2011年の大岩神社のアカガシ群の天然記念物、2015年の生物多様性保全上重要里地里山、2019年のつなぐ棚田遺産(ポスト棚田百選)にも選定・指定されています。知る人ぞ知る、ファンとなるリピーターが訪れる、古き良き里山を残す場所です。

都市農村交流の蓄積があり地元の方々は受け入れに慣れておられ、Wi-Fiが完備しているので、現地調査はスムーズに進みました。

学生は、昔ながらの地域にあるモノを自給してきたしくみを聞き出して、資源循環の図を組み立てました。

学生は、季節に応じた暮らしや営みを、歳時暦にまとめました。

大きな課題は、シカ、イノシシの獣害です。温暖化で雪が少なくなったこと、里地の周りの山が手入れされず薮となったことで、隠れやすくなり害獣が増えました。最寄りのICまで、車でわずか15分ほどですが、夜道を帰ると、4群、20頭近くのシカに出会いました。シカは、道の横の2mフェンスを軽々と飛び越えます。シカとぶつかり車が大破しても保険も出ないなど、おぞましい話を耳にします。理想の未来として、里山の縁は人と動物の間の緩衝地帯として、木を伐採して草地にしてミカン畑などでよく見かけるようなモノレールを敷く提案をしました。モノレール沿いに、各種センサーを取り付けて、自然を観察・撮影・配信する、警告音を出すなどを、考えました。
毛原周辺では、お地蔵さんを塗装する化粧地蔵の習慣があります。学生は、化粧地蔵、狛犬、道標、高札板などを、LiDARで3Dスキャンしました。また、モノレールの台車、害獣捕獲檻、高札場の囲い、動物のアイコンは、3D-CADで制作しました。里山の自然と歴史的な資源を再生する試みです。

そして、著者が地元民に提案し、学生に検討させたのが、コバノミツバツツジの再生です。未来のデジタルジオラマには、現在ある北東部の毛原の共有地の、展望台や散策路のコバノミツバツツジをより整備することと、南の入口に造られた棚田広場の横の大きな法面をコバノミツバツツジの園にすることを盛り込みました。学生は意見を出してくれましたが、残念ながらコバノミツバツツジの花の3Dは、時間的手間とデータの重さの制約から制作できませんでした。


この取り組みは、大学の授業に焦点をあて、デジタル技術を上手に活用した特色ある優れた教育取組のアイデア支援する文部科学省のScheem-Dのピッチアクターに採択されて、運営委員や他のアクターと交流させてもらった成果でもあります。
2022年12月4日には、地図を持って回り、自分を写し込んで地点の写真を撮るロゲイニングのゲームを、学生が主催しました。


学生は準備のために、他者が開く2回のロゲイニング大会に参加しました。3Dモデルを活用するPLATEAU Hack Challenge 2022 in 大和ミュージアム(2022年11月5日6日)という、ICTを地域の課題解決に活かすためのシビックテックに参加しました。そして、みんなでオープンデータの地図をつくるOpenStreetMapの、State of the Map Japan 2022 in Kakogawa(2022年12月3日)で、地図の有効な作成・活用を発表しました。

ロゲイニングのイベント前日にも頑張る
春は、授業が終わり、コバノミツバツツジを増やす策までは及んでいませんが、2名の学生とともに、2023年4月9日に、霧の中で幻想的な花見をしました。

毛原では、長年、民間企業の応援の元、その従業員の家族子どもと「毛原の森 モデルフォレスト」の事業を行い、自然の観察調査と、間伐など林の手入れを行っています。筆者も、少しは時間を見つけては、法面にコバノミツバツツジの種を吹き付けるなどを考えて、参加できればと思っています。
デジタルジオラマは、誰でもパソコン、タブレット、スマホで、移動、拡大縮小・ぐりぐり回転して見ることができます。デジタルジオラマのリンクから好きなジオラマのフォルダを選び、ダウンロードしてください。圧縮されるフォルダは解凍して、ファイル構成は変更せずに、htmlファイルをクリックすると、ブラウザが開きます。
●PCのマウス操作は次のとおりです。
・上下左右移動:左ドラッグ
・拡大縮小:ホイール
・回転:右ドラッグ
10㎢を超える広い範囲や、細かい3Dのつくり込みには、重たくなるので向いていませんが、その代わり国土交通省国土地理院が無料で公開している地図・空中写真のデータを用いて、比較的簡単につくれます。金と技術がかかる本格的な3Dとは違い、簡易です。基本的なパソコンスキルがある大学生や社会人はもとより、高校生でもできます。高校の先生で生徒を指導したいと思われる方を含め、著者に連絡いただき、挑戦していただければと思います。
【一連の活動に対する受賞歴】
2022年12月6日 イチBizアワード 惜しくもファイナリスト 4D for Innovation Team
2022年12月17日 LODチャレンジ2022 IIJ 賞[㈱インターネットイニシアティブ]受賞 4D for Innovationゼミ
2023年3月9日 内閣府主催 冬のDigi田甲子園 惜しくも入選を逃すが選者の評価が高かったと事務局から聞いた 毛原の住民とともに応募
2023年3月11日 土木学会インフラデータチャレンジ賞2022受賞 一般部門 医療・健康(テーマ) アクティビティ(タイプ) 看護学生がつくるバリアフリーの3Dタウン ミッションタウン3D化チーム(看護大学とのチーム)
2023年10月28日 地理情報システム学会賞 実践部門受賞 4D for Innovation Team
参考文献
笹谷康之、菱川貞義、杉原穂紀、幅彩水、廣本翔太、由井綾音、西田隆人、根岸健太「4Dジオラマを用いたまちづくりゲーム開発のPBL」『工学教育』71-4 2023