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8.仁和寺と御室八十八ヶ所霊場

 京を取り囲む三山には、コバノミツバツツジの群生地や、株数は少なくても隠れた名所がたくさんあります。その中で、半日かけてじっくりと散策できる群生地が、仁和寺とその裏山の御室八十八ヶ所霊場です。ここが著者の中学・高校時代の、2か所目の原風景です。

五重塔

 著者は、仁和寺まで1.5kmほどと近い、中学・高校に通いました。当時の仁和寺は、門番が居ない裏門から無料で入って、表門から出ていくのが、部活のお決まりのランニング・コースでした。1970年代前半は、三山の多くは、2~3mほどの背の低いアカマツと、ツツジも含めてそれより低い常緑・落葉入り乱れた木々が薮をつくり始めていましたが、市内が見渡せました。

御室八十八ヶ所霊場から見える市内

 著者は、地図であり、地理・地学が好きなので、地理部に入ってボール紙を切り抜き重ねて地形模型をつくり、地理教師から勧められて、地図を見ながら山野を駆け巡るオリエンテーリングに興じていました。受験勉強が忙しくなる高3の春も、同級生のW君と、クラブの後輩のK君を誘って、スコア・オリエンテーリング大会に参加しました。スコア・オリエンテーリングとは、ポストがある地点の番号、点数の〇が地形図上に記されていて、規定時間内に点数を数多く集める競技です。グループに地図が1枚だけ渡されて、一緒に回ってくださいとは言われましたが、そんなの知ったこっちゃない。

 地図読みが得意な著者は一人地図を握りしめ、ポストの近くにくれば、難しい場所は分かれ道で2名を待たせて著者ひとりで往復、簡単で平坦な場所はK君をピストンさせ、簡単でピークに昇り降りする場所はW君にダッシュさせました。W君が戻ってきた直後から次のポストに向けて山路を走り出すと、「待ってくれよ」とW君。「お前、地図も読めへんし、いつも競輪場で走ってるのやさかい、ついてこい!」と激励したので、見事優勝しました。

 このときの大会の場所はより西の山でしたが、木々が生い茂ってきたとはいえ、御室八十八ヶ所霊場は、今も当時の面影を残している仁和寺の裏山です。今は、植え込んでいる場所もありますが、元々は、裏山から飛んできた種が芽吹いて、コバノミツバツツジは大きく育ちました。

鐘楼横にはコバノミツバツツジの若木が植えられている

 2020年4月2日の筆者の誕生日、仁和寺の受付にいたおばあさんは、「昔はツツジが、4月下旬やったけども、今は3月下旬に咲き始める。今日はもう満開が過ぎてる」と語ったので、はっとしました。さすがに、散って花絨毯はなじゅうたんが敷かれたツツジもありますが、まだまだ満開。しかし、1か月早く咲くという実感に、頷きます。

観音堂横は花絨毯

 次に仁和寺を訪れたのは、2023年3月27日でした。前年秋に中高時代の親友のU君を失くし、春に彼の弁護士仲間が東京でお別れ会を開くというので、その前に彼の実家の近くを歩きたかったからです。昔のことで、高校卒業式の直後に仁和寺の近くの担任の家に行って酒を浴び、ぶっ倒れたので自宅まで送ってくれたU君。優秀で正義感が強いU君の結婚式には、ほとんどが弁護士仲間、高校の同級生はすべて文系の中で、理系の筆者も参加させてもらいました。U君は、既存の常識とは違う個性的な発想をする著者のよき理解者でした。そんなU君がいつも見ていた、つまり彼と著者が共有してきた原風景をしっかりと確認したかったからです。コバノミツバツツジは、御室八十八ヶ所霊場に咲く自生の仏花です。京の街並みを見下ろしながら、花とともに祈った場、だからここが、著者の中高時代を飾る第2の原風景です。

御室八十八ヶ所霊場のお遍路道

 お遍路道なので、トレランは避けるとしても、少しぐらいワイワイと駆けてもよいし、しめやかに祈りながらでもよいので、有名な御室桜の咲く前、3月末から4月上旬に、ぜひ仁和寺と、御室八十八ヶ所霊場にお越しください。
 書き終えて、今後こういったツツジ名所を、地図とともにしっかりと案内していきたいと思いました。


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